沖縄知事選に関する地方紙の伝え方〜社説より①

沖縄知事戦について地方紙がどのような捉え方をしているのか。
それがとても気になりました。


沖縄は現在の日本において最も象徴的な「地方」です。当然この「地方」は、「中央」=政府の存在を前提とするものです。現在「地方」と「中央」を考えるとき、どうしても、まず沖縄と政府の関係性が浮かんできます。
その関係性は時代を二つ、三つさかのぼって見られるような古典的なものといえはしないでしょうか。つまり、「中央の意向と地方の意向が真っ向から衝突している状況で、中央が地方を【アメとムチ】を使って地方を屈服させようとしている」といった関係性です。それは中央と地方の関係性において前近代的なものだと僕は思いますが、それに対し近代を象徴するものの一つ【選挙】で明確に「否」を突きつけたのが9/29(日)に投開票が行われた沖縄県知事選挙だったと思います。
「地方」は彼らの歴史において大なり小なり「中央」との前近代的な関係性の記憶を持っていることでしょう。それは以前より見えにくくなっているだけ=「中央」からすれば巧妙になっているだけで今でも変わらない関係性なのかもしれませんが、それが露骨なまでに、グロテスクなまでに表面化しているのが今の沖縄県においてです。その姿を見ることは、「地方」にとって絆創膏で覆われた生傷に塩を塗られるようなものなのではないか、と僕は考えます。「沖縄県、君たちの気持ちはわかるよ」という「地方」の声が聞こえてくるようです。それを声に出すか、心の中で思っているだけかの違いはあれ。
そんな「地方」にとって、今回の沖縄知事選挙は、【同胞が勝った選挙】と言えるものと思います。もちろん各地方の知事が支持政党が自民党公明党だから政府側を応援していたということではなく、「中央」に対する「地方」という意味においてです。


「地方」の声を聞きたいと思いました。それを調べるものとして地方紙に注目しました。地方紙はその地方の情報を主に伝えています。国民全体にかかわる情報ももちろん伝えますが、「○○地域のイベント」や、「○○公民館がオープンしました」など、地域に密着した情報も多くの紙面をさいて伝えます。その伝える相手は、他地方(他県)の人ではなく、あくまで「その地方」の人です。僕は群馬在住なので、地方紙といえば上毛新聞ですが、上毛新聞の購読者は群馬県の人です。逆にいえば、群馬県の人に受ければ良いのが上毛新聞です。他地方紙も同様です。購読層に受ければいのです。
それを前提にすれば、紙面の一つである社説ももちろんその地域に住む人々へ向けて作られたものと考えることは可能でしょう。社説はその新聞社の考えを表明するとともに、「購読者(=「地方」に住む人)に受ける内容はどんなものだろう?」ということを考えた結果のものと言えるのではないでしょうか。それを前提として社説を読むといろいろなことがわかるような気がします。


沖縄県知事選を「地方」で言論活動を行う地方紙はどのように伝えたのか?
それを調べました。方法として、各地方紙の社説で沖縄選挙結果について、
1、そもそも社説で取り扱ったか 2、どのような内容だったか
を調べました。
地方紙の定義として、「47都道府県52新聞社のニュースと共同通信の内外ニュースを束ねた総合サイト」である『47NEWS』(https://www.47news.jp/)に参加している報道機関、としました。各ホームページで「社説」(またはそれに類するもの)を確認しました。「上毛新聞」については、ホームページに社説が掲載されていないので、実際の紙面で確認しました。


「地方」の他の「地方」への声を聞くとともに、「中央」に対する声も聞くことを意図しています。
安倍政権は「地方」において重要な投票で実質的に二連敗しました。自民党総裁選、沖縄知事選においてです。(自民党総裁選では地方党員票で55%取りましたが、国会議員投票や党員締め付けなどを考えると明らかに「敗北」でしょう)
来年2019年には統一地方選参議院議員選挙が控えます。まさに「地方」の審判が示される機会になります。それらにおいて安倍氏が勝てるのか? そこまで視野を意識して地方紙の社説をみていきたいと思います。
(今回は第一段として北海道新聞新潟日報までの19地方紙について調べました。)


北海道新聞 10/1(月)社説
「沖縄知事選 新基地拒否で県政継続」
・国は、県による辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回に対し、法廷闘争などに踏み切るべきではない。
・移設反対の声が広がった背景には、安倍政権が米軍基地の県内移設を推進するため、経済振興を絡めて、アメとムチとも言える「上から目線」のやり方を続けていることへの怒りがある。
・国は県民の分断を招くような手法は改める必要があろう。
・選挙戦で玉城、佐喜真両氏はともに在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の改定の必要性を訴えた。全国知事会も協定を抜本的に見直すよう提言している。こうした声を受け、国は協定の改定に向けて取り組むべきだ。


河北新聞 10/2(火) 社説
「沖縄知事に玉城氏/対立構図脱する道はあるか」
・移設問題はもう一度、原点に立ち返って考えるべきだろう。普天間飛行場を取り囲んで住宅地が広がり、小学校があり、大学がある。移設の最大の目的は、世界で最も危険とされるこの飛行場の危険性除去だったはずである。
・翁長氏の知事在任時は、この原点が置き去りとなった印象が拭えない。辺野古移設に反対なら反対として、実現可能な具体的な対案をある程度は提示するのは知事に求められた責任ではなかったか。
 むろん、代替案は国が考えるべきだという県側の主張には理がある。しかし、さまざまな行政手続きを重ね地元の意向も取り入れてまとめた移設案を政府が容易に放棄することはあり得まい。
共同通信社が投開票日に実施した出口調査によると、辺野古移設に「反対」「どちらかといえば反対」と答えた人はほぼ6割。知事選の結果と共に、政府はこうした数字を重く受け止めるべきで、これまで以上に県民に対して丁寧な説明が必要になろう。
 新知事もまた、これまでの経緯にかかわらず、何らの成果も生んでいない不毛な対立構図を脱し、仮に現実的な方策があるのだとすれば、青写真を早急に県民に対して示すべきではないか。


東奥日報 10/3(水) 持論
辺野古移設」まず対話を/沖縄県知事
辺野古移設反対を明言する知事を再び選んだ県民の意思は明確と言える。
・政府と県が法廷闘争も含めて対立する事態は県民も望んでいないだろう。辺野古移設の是非をあらためて検討すべきであり、まずは政府と新知事との対話を求めたい。
・私たちが考えるべきなのは、移設の是非を巡る選択を沖縄県民に強い続ける現状でいいのかという問題だ。現在、在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中する。日米同盟を維持するのであれば、全国で基地を負担し、その縮小を目指すべきではないか。
沖縄県に関して早急に取り組むべき課題も選挙戦で明確になった。一つ目は、普天間飛行場の早期の運用停止だ。
・二つ目は、日米地位協定の抜本改定だ。
・三つ目は、経済振興策だ。安倍政権は辺野古移設に反対すれば沖縄振興予算を減らすという「アメとムチ」の対応を取ってきた。その姿勢が県民の不信を深めていることを省みるべきだ。


デーリー東北 10/2(火)  社説
沖縄県知事選 民意は明確に示された」
・2014年の前回知事選に続く政権支援候補の敗北で、移設反対が沖縄の民意であることを明確に示したといえる。
・玉城氏は翁長氏同様、日米同盟自体を否定する立場を取っているわけではない。だが、在日米軍専用施設の70%以上が沖縄に集中。県民は米軍人による度重なる凶悪犯罪や、米軍機の相次ぐ事故に苦しめられてきた。両氏はこうした不条理を是正してほしいという県民の切実で、ごく当たり前の願いを代弁することで知事選を勝ち抜いた。
・日米同盟の円滑、かつ効果的運用には米軍施設の周辺住民の納得と理解が必要不可欠となる。県民の大多数の反対を押し切って辺野古沖の新基地建設を強行しても反発を招くばかりで、日米同盟の強化にはつながらないのではないか。
米朝両国は歴史的な首脳会談を機に、北朝鮮の非核化に向けた協議を継続している。日本政府も硬直した立場に固執すべきではない。
自民党総裁選で連続3選を果たし、内閣改造に踏み切る安倍晋三首相は今回の選挙結果で冷や水を掛けられた気分だろう。これを契機に、今度こそ本当に「沖縄県民に寄り添っていく」姿勢に転じなければならない。


秋田魁新報 10/2(火) 社説
「沖縄知事選 真摯に民意受け止めよ」
沖縄県民が移設反対の意思を再び明確に示した事実は極めて重い。(中略)県民から突き付けられた「辺野古ノー」の思いを重く受け止め、真摯(しんし)に対応しなければならない。
・佐喜真氏は政権の意向を受け、経済振興子育て支援などに重点を置く一方、移設の是非には触れず「辺野古隠し」を徹底した。(中略)最大の争点について論戦を避ける姿勢はいかにも姑息(こそく)だった。
・政府は「辺野古移設は唯一の解決策」と言い続けている。民意を無視して再び辺野古移設工事を強引に進めれば、溝は一層深まるばかりだ。速やかに玉城氏との協議に臨み、辺野古移設の是非も含め、沖縄の基地負担軽減に向けた具体策に本腰を入れるべきだ。


山形新聞 10/4(木) 社説
「沖縄知事に玉城氏 国はまず対話すべきだ」
・「安倍1強体制」は永田町では依然として盤石なのかもしれない。一方、地方ではどうか。
・来年の統一地方選参院選に向けて、地方の政権基盤は必ずしも盤石でないことが示されたのではないか。
・当選した玉城氏も、争点となった普天間飛行場辺野古移設に関し「国とまずは協議したいと伝えたい。はなから対立や分断の立場を取るつもりはない」と述べている。一方、菅官房長官は記者会見で「移設と普天間返還を早期実現する考えは何ら変わらない」と強調した。このような硬直的とも受け取られかねない反応では、国と沖縄県の平行線の姿勢が交わることはない。
沖縄県外に住む私たちはもちろん投票の主体ではない。だからといって、基地問題が自分たちとは無関係な別世界の話と考えてはなるまい。
・知事選を通じ、他にも早急に取り組むべき沖縄県の課題が浮き彫りになった。その一つに日米地位協定の抜本改定が挙げられる。
経済振興策も重要だ。玉城氏、佐喜真氏とも、全国で最低水準にある県民所得の向上や子どもの貧困の解消を訴えた。安倍政権は辺野古移設に反対すれば沖縄振興予算を減らすという「アメとムチ」の対応を取ってきた。その姿勢が県民の不信を深めていることを省みるべきだ。沖縄の諸問題は、国と地方の関係が最も先鋭化した形で表れたものなのである。


岩手日報 10/2(火) 論説
沖縄県知事選 政府の反応を注視する」
・岩手から遠く離れた沖縄県の知事選に注目するのは、安全保障という国の専権に、地方の意思はいかに反映されるのか、あるいはされないのかという点にある。
・事実上の一騎打ちとなった前宜野湾市長佐喜真淳氏に約8万票の差がついたのは、まさしく「沖縄の意思」と言える。
・前回知事選に続き、名護市辺野古への新基地建設に改めて「ノー」を突きつけられた安倍政権の問題対応が、これまで通り強硬一本やりでいいとは到底思えない。
・米側さえ「世界一危険な飛行場」と認める普天間の日米返還合意から22年。問題の長期化で諸情勢が刻々変化する状況は、現政権の責任で改めて辺野古移設の意義や根拠を説く必要性を際立たせる。
 それなのに「辺野古移設が唯一の解決策」の一辺倒で、県民に説明を尽くす好機に沈黙するのでは、争点隠しを疑われても仕方ない。
・返還で合意した当時の橋本龍太郎首相は、代替施設を用意するとの条件にも「地元の頭越しには進めない」と強調していたものだ。国と地方の関係性は、辺野古移設問題を象徴として当時から随分と後退していないか。地方にあって、それはストレートに共有できる課題認識と言えよう。


上毛新聞 10/2(火)
辺野古移設、再検討を」
・菅官房長官は「辺野古移設の方針は変わらない」と強調した。民意に真正面から向き合う考えはないのか。
・移設の是非をめぐる選択を沖縄県民に強い続ける現状でいいのか。かつて本土に置かれた米軍基地は地域の反対運動に遭って沖縄に移され、今では在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中する。日米同盟を維持するのであれば、全国で基地を負担し、その縮小を目指すべきではないか。
共同通信が知事戦の期間中に実施した世論調査では、沖縄県民の安倍内閣支持率は27%にとどまり、不支持率が59%に上る。政権の地方の基盤は揺らいているのではないか。
・安倍政権は辺野古移設に反対すれば沖縄振興予算を減らすという「アメとムチ」の対応を取ってきた。その生死が県民の不信を深めていることを省みるべきだ。


神奈川新聞 10/4(木)
沖縄県知事に玉城氏 「辺野古ノー」に応えよ」
・「辺野古に基地はいらない」という県民の強固な意思の表れである。
・安倍政権は沖縄が重ねて示した「辺野古ノー」の民意に従い、「辺野古が唯一の解決策」と繰り返す硬直した姿勢を改め、計画を白紙に戻した上で、新たな方策を新知事と模索すべきだ。
・本来なら争点に据えられるべき政策も都合が悪ければ正面から取り上げない。民主主義の礎である選挙を軽視する振る舞いは国政でも散見される。
・外交、安全保障は国の専権事項だからと、圧倒的な数の力を頼んで、本土の意向が沖縄の意思を抑えつけるやり方は民主主義ではない。知事戦ではこうした姿勢にもノーが突き付けられたと言えよう。
・安倍政権を生んだのは国民だ。だから挙措の責任の一端を担う。移設計画の白紙化こそ、沖縄のこころに真摯に向きあうことに他なるまい。


山梨日日新聞 10/2(火)
「重い魂の飢餓 辺野古再考を」
※ 有料のため中身確認できず


信濃毎日新聞 10/2(火)
沖縄県知事選 政府が方針を改めねば」
・再び示された民意に政府は正面から向き合わなければならない。強引な姿勢を改める必要がある。
・結果は8万票の差をつけての当選である。沖縄県知事選で過去最多の票を得た事実は重い。
安倍晋三首相は「選挙結果を真摯(しんし)に受け止める」としつつ、「沖縄の振興、基地負担の軽減に努める」とこれまで同様の発言をしている。菅氏は「移設と普天間返還を早期実現する考えは何ら変わらない」とする。今回も沖縄の民意に応えようとはしない。
・政府が強硬な姿勢を変えなければ、今後も国と県の対立が続く。
・訴訟の結果、工事を再開できたとしても、ごり押しは県との間に深刻な溝を残す。重い基地負担を背負い続けてきた沖縄の声を踏まえ、米側と交渉するのが政府の本来の姿ではないか。
・政府は、辺野古移設を前提とするのでなく、県との話し合いによる解決に向けて努力すべきである。


新潟日報 10/2(火)
「玉城氏勝利 政権は強硬姿勢を改めよ」
・沖縄の民意は改めて「辺野古ノー」を突き付けた。安倍政権は強硬姿勢を反省し、県民の思いを丁寧にくみ取らなければならない。
・前回知事選では、移設反対を掲げた翁長氏が辺野古埋め立てを承認した現職に勝った。辺野古移設に反対する県民の思いが根強いことを示したといえる。
・移設反対派に勝った名護市長選の再現を狙ったが、こうした「争点隠し」の戦略も県民の不信を招いたのではないか。
・自民、公明両党支持者の4分の1は玉城氏に投じ、与党は支持者すら固めきれなかった。地方の異論に聞く耳を持たず、国策を強引に進める安倍政権のやり方に身内から反発が出たといっていい。
・政権がまずなすべきことは新知事や県の言い分に耳を傾けることだろう。対立を話し合いで解決することこそが政治の根幹だ。民意をないがしろにしてはならない。
 首相と石破茂元幹事長が争った党総裁選では地方票の約45%が石破氏に流れた。それに続く知事選敗退は「安倍1強」下での政権運営そのものが問われていると見て差し支えあるまい。
 首相はきちんと向き合うべきだ。言葉だけの「真摯」や「謙虚」で済ませてはならない。


福島民報
社説での言及なし


室蘭民報
社説での言及なし


福島民友新聞
社説での言及なし


下野新聞
社説での言及なし


千葉日報
社説での言及なし


茨城新聞
??
ネット上で社説が当日のものしか見ることができないため。


埼玉新聞
??
ネット上で社説の掲載がないため


注目は、「福島民報」と「福島民友新聞」の福島県二つの地方紙で取り上げられていないことです。
福島第一原発事故で「中央」との関係を意識せざるを得ない状況になった福島県の地方紙二紙がそろって沖縄県知事選に社説で言及していないのです。
福島県知事選が10/28にあることが影響しているのかもしれません。二紙とも社説で福島県知事選のことを10月頭に取り上げています。
「県民に予断を与える情報を伝えたくない」ということかもしれないし、「中央を刺激したくない」ということかもしれません。
しかし二紙揃って同じような対応をしたのはガッカリです。統制されているのか、と思うほど同じような対応をしています。
そんな情報機関は信用を失うでしょう。