黒田投手の広島カープ復帰がもたらすもの


遅ばせながら、明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします。


今年最初のブログは、昨年の報道の中で最も嬉しく感じたことについて書きたいと思います。
それは、昨年までMLBヤンキースで活躍していた黒田博樹投手が広島カープに復帰したことです。
それは黒田投手の復帰により広島カープが強くなるからではありません。
僕は阪神タイガースのファンですので、かえって、阪神にとって手強い相手が増えるだけで喜ばしいことではありません(笑)。
しかし、そんなことを超えてこのことはとても嬉しかったです。
黒田投手はメジャーリーグに移籍する際にも、
「最後は広島カープで」
といった趣旨の発言をしていました。

 「今の僕があるのはカープのおかげ。いずれは帰り、恩返ししたい気持ちはある。日本に帰るならカープしかない。帰るなら、バリバリやっている時に帰りたい」


スポニチ
http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2014/12/27/kiji/K20141227009530200.html


広島カープ球団は黒田投手がメジャーリーグに移籍したあとも毎年復帰の打診をしていたそうです。
ファンも毎年オフの時期になると復帰を期待していました。
それは黒田投手の年齢にも関係があったと思います。
移籍し、シーズンを送った2008年に32歳でしたので、それほど長くメジャーリーグでやらないのではないか、という推測は多くの人がしていたのではないかと思います。
そんなわけで黒田復帰待望論は毎年の「恒例行事」となりました。
今年は、今年は、という期待とともに、広島復帰を匂わせる報道も毎年ありました。
僕も「今年は帰ってくるのかな」と漠然と毎年思っていましたが、
なかなか帰ってこない状況に、「帰る帰る詐欺ではないか?」と近年密かに思うようになっていました。
そんな失礼な思いを打ち破るように、昨年12月に「黒田投手、広島カープ復帰!」の報道が日本だけでなく、アメリカでも駆け巡りました。
その報道を読んで涙が出てくる思いでした。実際に涙が出てきました。
それは冒頭で述べたように、広島カープが強くなるから、ではありません。
その復帰する状況にあります。

黒田 異例の日本復帰…米で契約していれば40歳超投手最高俸確実だった


「黒田についてはヤンキースが再契約を熱望し、パドレスは年俸1800万ドル(約21億6000万円)を用意。08年から4年間在籍したドジャースも年俸1600万ドル(約19億2000万円)プラス出来高払いを提示するなど複数球団が争奪戦を演じていた。ここまでの巨額オファーを蹴って、日本球界に復帰した選手は過去に例はない。」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141227-00000008-spnannex-base


広島カープでの今年の年棒は、4億円+出来高ということです。
引用部分にもあるように、メジャーリーグで最高年棒を提示していたのは、パドレスの年俸1800万ドル(約21億6000万円)と言われています。
出来高の条件が分からないので基本ベースでの比較になりますが、
広島カープパドレスとでは、17億6,000万円の差があります。
プロ野球界・ファンの間では常識ですが、広島カープは「貧乏球団」です。
選手の年棒も基本的に低いですし、多額の資金がかかるFA補強をしたことがない球団です。
そんな球団にとって、4億円+出来高という金額は「破格」のものです。
もちろん、球団史上最高額です。
広島カープにとって「清水の舞台から飛び降りる」ような金額ですが、
パドレスはその約5倍を提示していました。
世の中の「常識」でいえば、広島カープ復帰はありえません。

ESPN ヒロキ・クロダが日本に戻る


「(年俸)1600万ドルから300万ドルだって? 何かが他に起きているに違いない」
http://full-count.jp/2014/12/27/post7092/2/


現在の世界的「常識」ではこのように思うのが自然でしょう。
しかし、黒田投手はそんな「常識」ではありえない選択をしました。
しかも、17億6,000万円を拒否するというダイナミックな方法で!!
世界的にみても、これほど「世の中お金だけじゃないよ」というメッセージを、説得力をもって人々に投げかけた人はいたでしょうか。
黒田投手は自分の選択によって「世の中お金だけじゃないよ」を実践したのです。
出来高もあわせて4億円以上の年棒というのは世間では超高年棒であることに違いありません。
ただ、恐らくどんな超高年棒であれ、「本来もらうことができた金額」と「実際にもらう金額」の差額の方に意識は向くものだろうと思います。
つまり、4億円以上という超高額にではなく、17億6,000万円という差額に普通意識がいくのだろうと思うのです。
黒田投手も例外ではないでしょう。
しかし、その17億6,000万円という差額の魅力的な誘惑を振り切ることで、
広島カープ復帰を決めた黒田投手は、
「お金よりも優先すべきものがある」
を実践したのです。


「世の中お金だけじゃないよ」「お金よりも優先すべきものがある」
これらの言葉が語られるとき、そこには嘲笑と同類のものが存在していることは否定できません。
「まあ、まあ、まあ。そんな´理想´の話はおいといて、´現実´の話をしようよ」
そんな言葉もセットのように存在しています。
それはそんな´理想´を実際に実行した人がいないから、です。
だから´理想´が´理想´でしかなかったのです。
しかし、黒田投手は、その´理想´を´現実´のものにしました。
世の中に対して、はっきりとそれを表明しました。
この事実は、今後の世の中への貴重なメッセージになると僕は思います。
「世の中お金だけじゃないよ。お金よりも優先すべきものがある。黒田投手をみなよ」
と、最後の言葉を付け加えることができる強みといったら!
影響力がある人が実行すること、発言することは、世の中の空気にも大きな影響を与えます。
「韓国、中国なんかクソくらえ」
といった類の発言が外部にも出てきていることは、明らかに安倍首相、お仲間の影響でしょう。
例え思っていても世の中で認知されていない、受け入れられないであろう言葉を外部に出すことは、勇気がいるものであり、なかなか出てこないものです。
それが外部に出てくる状況とは、「韓国、中国なんかクソくらえ」という言葉が受け入れられる、と発言者が実感し、判断している状況であるといえます。
そのような実感、判断を促すのが、著名人の発言や行動です。
良きにつけ、悪しきにつけ、著名人の影響力は強いものです。
黒田投手にしろ、安倍首相にしろ。


黒田投手の17億6,000万円を拒否して広島カープ復帰という行動が、
たちまち世の中を「お金より大事なものがあるよ」といったものにするわけではありません。
「お金が一番だよ」という現在の世の中の「常識」がたちまち覆るようなことはありません。
しかし、「お金より大事なものがあるよ」と外部に出すことのハードルが下がったことは間違いありません。
その言葉に共鳴する人の存在も増えたことでしょう。そしてそれらの人はその言葉を外部に出していく機会も増えるでしょう。
それはいつしか現在の「常識」をかえるきっかけとなり、力にもなるのではないでしょうか。
黒田投手の行動が世の中に問い掛けること。
僕はそれを想像すると明るい気持ちになるのです。