第47回衆院選からみる近未来2


前回の続きになります。
http://d.hatena.ne.jp/narumasa_2929/20141226/1419525633


2、低投票率安倍内閣


前回は平成24年衆院選の年齢別投票率を使い、「若者の投票率は低い」「50歳以上の投票率は高い」といった「傾向」ではなく、「若者にも、50歳以上にも投票しない人はいる」という(当然の)「実態」で考えることの重要性を提起しました。
今回はそれに続けて、「では、なぜ投票しない人はそういう行動をとったのか?」ということを検討したいと思います。そして、そこから安倍政権が取るであろう近未来的政策を考えてみます。


12/14の衆院選の次の日、TBSラジオ森本毅郎・スタンバイ!』という番組を聴きました。この番組は朝のニュース検証番組といった内容ですが、当然衆院選の結果について多くの時間をとっていました。その中で聴取者に「あなたは投票に行きましたか?」という質問を投げかけ意見を求めていました。短い時間でしたが、200ほどの意見が寄せられていました。その結果は約85%が「投票に行った」、約15%が「投票に行かなかった」というもので、実際(投票率52.66%)と真逆のような印象を受けるものでした。一瞬驚きましたが、普通に考えればこのような番組を聞く人は政治に関心があるのだろうから当然の結果だな、と思い、僕の関心はすぐに「投票に行かなかった人の理由」にうつりました。いくつかそれが紹介されていて、以下のようなものでした。


・選挙に関心がなかったから
・選挙前の報道などで、結果がはっきりしていたので投票しても意味がないと思ったから
・選挙自体に納得していなかったので、反対の意味を込めて投票しなかった


 当然これらが無投票の理由を代表しているものではありませんが、少ないながらも「無関心無投票」と「積極的無投票」の二つの流れを抑えていることは確認できます。「積極的無投票」は選挙ごとに自分で考え、結果無投票を「選択」しているわけで、投票することとはコインの裏表のような関係といえます。クルッと次の選挙では投票の面をだす可能性もあります。なのでそれ程問題ないものと僕は解釈しています。


一般的に無投票というと、圧倒的に「無関心無投票」の方を指すことが多いと思います。「全く若者は投票に行かないで困ったものだ」という世間に漂う声の裏には、若者の選挙・政治への無関心を嘆く思いが色濃くあるように感じます。「若者こそ選挙に行くべきだ。自分たちの将来がかかっているのだから」という言葉について、(僕は世の中に‘正しい’ことなどほとんどないと思っていますが)正しいことだと思います。自分の10年後、20年後、50年後をより良いものとしたければ選挙に行くべきだ、と僕も言いたいし、勉強しろともいいたい。ただ若者とは元来相対的に選挙に無関心なものという定義もまた可能だということがデータから分かります。前回にも使ったデータですが、



ここから分かることは、現在の60代は74.93%と年代別ではトップの数字を誇っていますが、約40年前の昭和47年第33回衆院選¬=彼らが20代の時は、61.89%で全年代別で最下位だったということです。他の回をみても、このデータ上では第31回(昭和42年)の一度を除いて20代が全て最下位ということが分かります。つまり、少なくとも昭和40年代から「全く若者は・・・」だったわけです。
そうなると、若者の投票率が低いことは彼らの性といってもよいのではないかと思います。そこばかりを問題にしてもそれ程意味のないことが分かり、問題は全体的に投票率が下がっているという、極めて根本的なことに行き着きます。投票率が高い50代以上のそれも着実に落ちています。
 全体的に投票率が落ちていることをどのように考えるか、ということが重要になりますが、ここに株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシーという会社が行った「総選挙・無投票調査【報告書】」という資料があります。


総選挙・無投票調査【報告書】
http://www3.jma-net.jp/wp-content/uploads/sites/2/2013/07/electionreport.pdf


この報告書は、前回平成24年衆院選で投票しなかった人を対象にした調査をまとめたものになります。
調査概要は、


調査目的 :2012年衆議院議員選挙における無投票(白紙投票)者の意識の把握
調査エリア:全国
調査対象 :20〜69歳男女 / 2012年衆議院議員選挙無投票者及び、白紙投票者
サンプル数:計1,000人


となります。
(詳細は、http://www3.jma-net.jp/wp-content/uploads/sites/2/2013/07/electionreport.pdfのP2)


この中に「無投票理由」という項目があります。



http://www3.jma-net.jp/wp-content/uploads/sites/2/2013/07/electionreport.pdfのP10
引用:株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー


ずばり「なぜ投票しなかったのか?」という質問ですが、
やはり「無関心無投票」と「積極的無投票」が混在しているのが分かりますが、ほとんど「無関心無投票」の項目です。
はっきり分かる「積極的無投票」は、「投票に行かないのも意思表示」くらいでしょうか。
「投票したい候補者や政党がなかった」も字面だけみれば「積極的無投票」にいれてもよいのかもしれませんが、実際は何だか‘もっともらしい理由’のように感じられます。これは僕の勝手な感想ですが(笑)。
(ちなみに、映画監督の想田和弘さんはこのような考えを「消費者民主主義」という言い得て妙な表現で説明されています。http://documentary-campaign.blogspot.jp/2013/06/blog-post_17.html


まあそれはいいとして、「無関心無投票」についてです。
「無関心無投票」の比率が理由として多いわけです。理由としては調査の結果のとおりで、「誰が当選しても政治や暮らしは変わらない」や、「投票に行くのがめんどうだったから」「政治や選挙に関心がないから」なのでしょう。それは明確なのですが、僕が関心があるのは、「なぜそのように考えるようになったのか?」です。


原因と結果の関係で考えるなら、上記の理由は結果です。「こういう理由で投票しなかった」という結果です。結果はそれ自体が貴重な情報になりますが、それだけでは「ああ、そうだったのか」という感想レベルで終わってしまう可能性があります。それをより活かす方法は、結果を導いた原因をつきとめることです。「どんな原因でその結果に至ったのか?」を考えること。これを実践することで、結果はその後の材料になりえます。
 
 
 それでは「無関心無投票」の理由(結果)に至った原因を考えてみたいと思います。これは決して一つではないことは言うまでもありません。例えば、「誰が当選しても政治や暮らしは変わらない」という理由と、「政治や選挙に関心がないから」という理由のそれぞれの原因は違うものでしょう。例えば、「誰が当選しても政治や暮らしは変わらない」に対しても人によって原因は変わってくるでしょう。
なので、以下取り上げる原因はあくまでもone of themです。これを解決すれば投票率が低い問題は解決できるわけではありません。


 僕がここで取り上げる「無関心無投票」の原因は、「貧困」です。「貧困」が「無関心無投票」へ人を巻き込む要因になっているのではないか?という推測です。
ここで資料を取り上げます。出元はさきほどと同様です。



引用:株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシー


「経済的余裕が投票にどのような影響を与えるのか?」を主眼にした項目です。
「やや余裕がない」「余裕がない」で59.7%
「余裕がある」「やや余裕がある」で12.0%
「どちらとも言えない」で25.7%
という結果です。
この調査における無投票者の約60%が、経済的に余裕がない人たちとなっています。
余裕がある人は12%で約1/10人です。
この数字の差の歴然性は一見驚いてしまいますが、ちょっと考えると妥当な数字だということが理解できます。
「政治なんかより、今月の家賃の方が心配なんだよ!」
という切実な悩み・心配によって。


悩みや心配事があるとき、政治への関心が薄れることは、僕自身の経験からもよく理解できます。僕はいつも政治に関心があるわけではありません。その強弱は日々のレベルで存在します。その差は、体調だったり、悩みや心配ごとの有無によって生じます。
こんなことをいうと怒られるかもしれませんが、はっきり言って、政治への関心なぞは自分のことの次にあるものです。自分に致命的な心配ごとがない時にはじめて考えることができるものです。仮に今僕が致命的な心配ごとをもっているとしたら、そもそも選挙についても、投票する・しないについての文章も書いてはいないでしょう。それは間違いない。そんなことより自分の心配をしています。思考力も著しく落ちますし。
その意識が常に自分の中にあることを自覚しています。そんな僕から見ると、「貧困」が「無関心無投票」に直結することはとてもよく理解できます。政治のことなんかより、今日明日のごはんのことを考えるし、家賃のことを考えるし、絶望的と思いつめる将来のことを考えます。子どもがいたら養育について考えるでしょう。その具体的中身については分からないけど、考えざるを得ないという行為そのものについては絶対の自信をもって分かります。
 「自分の直面する貧困を改善するためにこそ、政治に関心をもつべきだ」という声は、論理的には充分正しいものだと思いますが、現実としてそれは正しいものではない、と僕は思います。そんな声よりも、「政治なんかより、あすの米櫃の方が心配なんだよ」という声の方が、短絡的で論理的にはどうしようもないのかもしれませんが、現実に強く訴え掛ける声として僕は認識します。
 そのような考えから、「貧困」は政治への無関心を大きく助長し、「無関心無投票」へと人を導くものとして確かな力をもっていると僕は思っています。


 それでは現在日本のどれほどの人が「貧困」状態なのか?ということを確認してみます。

日本人の6人に1人が「貧困層


貧困率は、低所得者の割合を示す指標。厚生労働省が2014年7月にまとめた「国民生活基礎調査」によると、等価可処分所得の中央値の半分の額に当たる「貧困線」(2012年は122万円)に満たない世帯の割合を示す「相対的貧困率」は16.1%だった。これらの世帯で暮らす18歳未満の子どもを対象にした「子どもの貧困率」も16.3%となり、ともに過去最悪を更新した。
これは、日本人の約6人に1人が相対的な貧困層に分類されることを意味する。この調査で生活意識が「苦しい」とした世帯は59.9%だった。貧困率が過去最悪を更新したのは、長引くデフレ経済下で子育て世帯の所得が減少したことや、母子世帯が増加する中で働く母親の多くが給与水準の低い非正規雇用であることも影響した、と分析されている。


nippon.com
http://www.nippon.com/ja/features/h00072/

子供の貧困率、最悪の16.3% 厚労省12年調査


厚生労働省が15日まとめた国民生活基礎調査で、平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の子供の割合を示す「子供の貧困率」が、2012年に16.3%と過去最悪を更新したことが分かった。前回調査の09年から0.6ポイント悪化した。同省は「当時はデフレ下の経済状況で、子育て世帯の所得が減ったことが原因」としている。
 大人も含めた所得の低い人の割合を示す「相対的貧困率」も前回調査から0.1ポイント悪化して16.1%だったが、1985年の統計開始以来、初めて子供の貧困率が上回った。同省は「母子世帯が増えており、働く母親の多くが非正規雇用であることも影響したのでは」と指摘している。
 12年の全世帯の平均所得は537万2千円で前年比11万円(2%)減少し、統計開始以降、4番目に少なかった。子供がいる世帯の平均所得が同3.4%減ったことが影響した。
 調査は全国の世帯を対象に無作為抽出し、13年7月に所得についての調査票を配布。2万6387票(有効回答率72.4%)の提出を受け、集計した。


 ▼貧困率 低所得者の割合を示す指標。経済協力開発機構OECD)の基準を用い、収入から税金などを差し引いた全世帯の可処分所得を1人当たりに換算して低い順に並べ、中央の額の半分に満たない人の割合を「相対的貧困率」と定義する。
 2012年の場合は所得が122万円未満の人の割合を指す。相対的貧困率が高いほど、経済格差が広がっていることを意味する。18歳未満の子供の貧困率も同様に算出。一般的に子供に収入はないため、親の所得などを用いて割り出す。


日経新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG15H15_V10C14A7CR8000/

単身女性、3人に1人が貧困 母子世帯は57%


勤労世代(20〜64歳)の単身で暮らす女性の3人に1人が「貧困」であることが、国立社会保障・人口問題研究所の分析でわかった。2030年には生涯未婚で過ごす女性が5人に1人になると見込まれ、貧困女性の増加に対応した安全網の整備が急がれる。
 07年の国民生活基礎調査を基に、同研究所社会保障応用分析研究部の阿部彩部長が相対的貧困率を分析した。一人暮らしの女性世帯の貧困率は、勤労世代で32%、65歳以上では52%と過半数に及んだ。また、19歳以下の子どもがいる母子世帯では57%で、女性が家計を支える世帯に貧困が集中している。


朝日デジタル
http://www.asahi.com/special/08016/TKY201112080764.html


【参考】NHKクローズアップ現代」あしたが見えない 〜深刻化する“若年女性”の貧困〜
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3458.html


【参考】貧困統計ホームページ
http://www.hinkonstat.net/平成25年国民生活基礎調査-を用いた相対的貧困率の動向の分析/


3つほどデータとそれに関する記事を引用しました。
国民全体における相対的貧困率、子どもの相対的貧困率、最も貧困状態が深刻だといわれる単身女性の貧困に関してです。
要点をピックアップすると、


・日本人全体、18歳未満の子どもともに約6人に1人が貧困層(調査時では年122万円以下)
・生活意識が「苦しい」とした世帯は59.9%。貧困層を超えて苦しさがある
・勤労世代(20〜64歳)の単身で暮らす女性の3人に1人が「貧困」
・一人暮らしの女性世帯の貧困率は、勤労世代で32%、65歳以上では52%。19歳以下の子どもがいる母子世帯では57%。


といったことが見えてきます。
実態として「貧困」状態の人が確かに存在しています。それも少数としてではなく、一つのグループとして認識される層となってです。
いつの世も「貧困」状態の人がいなくなることは恐らくないでしょう。
日本有史以来、「貧困」状態の人は絶えず存在していたはずですが、時代が現代に近づくにつれその数字は小さくなっていったものだろうと思います。
それは国が豊かになったことや、政府の役割として福祉の重要性が認識されてきたことがその主な要因だと思います。
現在の政府を切り盛りする安倍内閣も子どもの「貧困」状態に対する姿勢として、今年の8月に「子供の貧困対策大綱」を閣議決定しました。
内閣府「子供の貧困対策大綱」http://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/pdf/taikou_gaiyou.pdf
子どもの「貧困」状態を問題として認識し、それに対しての閣議決定として評価しますが、果たして安倍内閣が「貧困」問題について積極的に動くのだろうか?という疑問を僕はもっています。
その理由は主に二つあります。



1、 選挙対策として


投票率が低くなれば組織がしっかりしている党が強い」
とはよく言われます。
具体的に‘組織がしっかりしている党’とは、自民党公明党共産党が思い浮かびます。街中のポスター、立て看板の数を見ればそれを実感できます。
先日の衆院選においても街を歩いていて見たポスターは自民党共産党公明党のみといっていい。党員や協力者をしっかり確保しており、それに基づいて資金もあるのでしょう。
そのような党の組織に属する有権者は、雨が降ろうが槍が降ろうが選挙にいく可能性が極めて高いと思われます。党にとっては計算できる票です。
そんな党にとって選挙は「計算できるもの」にしておきたい、というのが欲望としては正直なところでしょう。つまり、極論すれば党員だけが投票する選挙が最も望ましいはずです。それは、「自分たちが操作できない人には投票してほしくない」という欲望と同質のものといえます。換言すれば「投票率は低い方がよい」です。
2000年第42回の衆院選における時の首相森喜朗氏の発言が‘自民党の欲望’を端的に表現しています。

無党派層に対して)「そのまま関心がない、と言って寝てしまってくれれば、それでいいんですけれども、そうはいかんでしょうね」


今から14年前の発言ですが、今なお自民党内では有効なのではないでしょうか。
それは安倍氏衆議院の解散の仕方、タイミング、テレビ局に出した‘報道規制’の要望などからそれは充分見て取れると思います。
国民に考える時間を与えず、解散の理由もあやふやにし、世論に最も訴える力があるテレビに対して実質「報道するな」という恫喝をしたことは、‘投票率を上げない工作’も含んでいたものだろうと僕は考えています。
そんな自民党の欲望は、言葉にするのも恐ろしいですが、「貧困層を減らしたくない」というドス黒い領域に行き着くのではないだろうか、と僕は危惧しています。
政党、特に長年与党の経験がある自民党は選挙について詳細な研究をしているはずです。(そこは信用しています)
年齢、性別、都道府県などで、投票行動を研究しているはずです。
その中に経済状況も当然あるでしょう。どんな経済状況の人が投票に行くのか?そして行かないのか?
そのデータを蓄積しているはずです。その中で、僕が上記で指摘した「貧困層に無関心無投票が多い」というデータもあるでしょう。
自民党の欲望は「投票率を低くしたい」ということは先に述べましたが、
その一つの方法として、彼らが「貧困層を減らしたくない」と思うことは論理的な帰結としても当然のことです。(それは「貧困層を増やすことがより効果的」というさらなる暗黒を誘発するのですが)
ただ、その欲望を欲望のまま出すのか、欲望は欲望として別軸で思考するのかでは全く結果は異なります。どちらの方向に進むのかは、安倍内閣の政策をみれば想像できます。



2、安倍内閣の政策


まず安倍内閣の基本姿勢を確認します。

まず企業が生産性を高め、収益を改善していく。雇用を改善し、給料が増える。消費は盛んになって景気は回復していく。デフレから脱却し、経済が成長し、生活が豊かになる。


産経新聞
http://www.sankei.com/politics/news/141202/plt1412020066-n1.html


これは先日の衆院選における街頭演説で語られた言葉です。
安倍内閣の経済政策の基本姿勢といえます。
「企業が儲かればみんな豊かになる」
簡単にいえばこうなのでしょうが、僕には「風が吹けば桶屋が儲かる」的な考えのようにしか思えません。引用部分において安倍内閣が政策で責任の一端を担える部分は最初の「まず企業が生産性を高め、収益を改善していく。」だけです。
そのあとの「雇用を改善し」〜「生活が豊かになる」までは、想像でしかありません。
「企業業績があがればそうなるはずだ」というただの想像です。
安倍内閣はこの想像を根拠にして「この道しかない」と言っており、道の先は国民の豊かさだ、と本気で考えているのかもしれません。
しかし、安倍内閣が第一段階の企業業績をあげるための政策として考えている大きなものが、労働者派遣法改正と法人税減税です。
労働者派遣法改正案は衆院選前の臨時国会衆議院解散のため廃案になったものです。
その内容は、

改正案では、企業が3年ごとに働き手を交代させれば、どんな仕事も、ずっと派遣に任せられるようにする。いまは秘書や通訳など「専門26業務」でない限り、3年までしか任せられなかった規制を緩める。
一方、人材派遣会社はすべて国の許可制にする。派遣労働者への教育訓練を義務づけ、待遇改善に向けた国の指導も強める。

朝日デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASG3C3C2FG3CULFA008.html


となっています。
様々な思惑や解釈が可能なのでしょうが、事実としていえることは、企業が同じ業務の従業員を継続的に派遣社員に担わせることができるということです。
企業からすれば正社員登用することなく、派遣労働者のまま雇用できるわけですから、
人件費抑制になり、(本業でのがんばりではありませんが)業績を上げることができます。安倍内閣からすれば自分たちの目的である「企業業績をあげること」に直結する政策であるはずです。彼らの経済政策に合致します。


実際にここ数年の傾向として非正規労働者は増加傾向にあります。



東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2014122602000239.html


安倍内閣の2年間で約200万人増加していることが分かります。
労働者に占める非正規労働者の割合は38%に達しました。
ただここで注意しなくてはならないのは、この増加が即「貧困」を呼び起こすような非正規労働者を発生させているものではないことです。

非正規社員2000万人突破、女性やシニアが増加 11月前年同月比48万人増、総務省調べ


総務省が26日まとめた11月の労働力調査によると、非正規社員は2012万人と前年同月から48万人増えて、初めて2000万人を突破した。企業で定年後の再雇用が広がっているほか、子育てが一段落してパートに出る女性が増えているため。かつては正社員になれずに非正規になる若者が急増したが、足元ではシニアと女性が目立つ。


 11月は雇用者全体に占める非正規の比率も38.0%と今年2月の38.2%に次いで過去2番目の高さとなった。


 非正規社員を性別ごとに見ると、女性が36万人増と増加分の4分の3を占めた。年齢別にみると65歳以上が26万人増と、64歳以下の22万人増を上回った。企業に65歳までの再雇用を義務付けることが決まっているうえ、人手不足を受けて積極的にシニアを活用する動きも広がっている。


日経新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS26H4R_W4A221C1EE8000/


ここにもあるように60歳以上の再雇用などの増加分が大きな割合になっています。
「年金をもらうまで」や「時間があるから働きたい」という人も非正規労働者にカウントされているわけです。
ただそれを差し引いても非正規労働者は増加している傾向には変わりありません。
安倍内閣の経済政策が「まず企業が生産性を高め、収益を改善していく」であるので、この流れは今後も続くでしょうし、より強化されていくものと想像します。
企業が業績をあげる方法は大きく分けて二つあります。
簡単なことで、入ってくるお金を増やして、出て行くお金を減らすことです。
企業が非正規労働者を雇用することは、出て行くお金を減らすためです。
正規労働者よりも安いからです。
非正規労働者を増やすことは、企業にとっては出て行くお金を減らすこと、つまりは業績を上げることになります。
安倍内閣がそれを促進することは論理的にも間違いありません。
安倍内閣は「まず企業が生産性を高め、収益を改善していく」ことで、「雇用を改善し」から「生活が豊かになる」と言っているわけですが、そもそもの第一歩が非正規労働者を増やすことをエンジンの一つにしている時点で、「生活が豊かになる」に行き着かない人が増えていくわけです。



厚生労働省平成24年度版 労働経済の分析」
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/12/dl/02-1.pdf



独立行政法人経済産業研究所
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/11j056.pdf


ここからも分かるように、正規労働者と非正規労働者の収入には大きな差があります。
また、非正規労働者貧困率は正規労働者の比ではありません。
当然、非正規労働者の中でも、業種や企業により待遇がまったく違うもので全てが全て「貧困」状態になるわけではありませんが、非正規労働者の増加が「貧困」状態の人を増やしていくことはこれらの図よりも了解されるものと思います。


これらを考慮すると、安倍内閣の経済政策は非正規労働者の存在を必須とするものであり、それによる企業業績向上を促すものであることが分かります。
「あなたがたの出て行くお金を減らしやすい政策をしてやるから業績を上げて」
であり、非正規労働者を継続的に(永続的に)使える労働者派遣法改正は企業へのその贈り物といえます。


繰り返しますが、安倍内閣の経済政策は「企業業績が上がればいずれ国民も豊かになる」を基礎とするものです。いまだ国民は豊かになっていない状況を彼らは「まだ途中です。これから良くなります」と言います。その途中段階としての労働者派遣法改正ということなのでしょう。
「あくまで今は途中で、最後には必ず国民に豊かさを届けます!」
という物語をいかに国民に信じさせるかを彼らは躍起になっていろいろな手を講じています。例えば、株価を上げることであり、円安誘導であり、企業の賃金上昇要請です。
これらの数字を示すことで、「ね、言ったでしょ!」と言い続けています。
株価上昇や円安誘導は最早その力を失った感があります。円安誘導に関しては、輸入品の価格上昇で、逆の効果になってきてすらいます。
それでも企業の賃金上昇に関してはまだ力があるように思えます。
実際に賃金が上がるというのは直接的で「いつか自分のとこにも来るだろう」と想像しやすいのかもしれません。
しかし、賃金上昇が果たして安倍内閣の「国民が豊かになる」に繋がるのか、当然豊かになる人はいるのですが、疑問に思う部分もあります。

 ファミリーマートが2015年春闘で、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善を実施する方向で検討していることが24日、分かった。実現すれば2年連続のベアとなる。ベアの額は今後、労組側の要求も踏まえ、前年実績の月額5千円を参考に調整する。小売り大手でベア実施に向けた動きは初めて。
 大手コンビニのファミリーマートの動きは、セブン&アイ・ホールディングスやローソンといった流通・小売り大手だけでなく、春闘全体にも影響を及ぼしそうだ。
 ベアの対象は、本部の社員など合計で三千数百人となる見通し。


東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014122401001616.html


ファミリーマートが来年春闘でベア実施する、という話ですが、
注目したいのは最後の部分です。


「ベアの対象は、本部の社員など合計で三千数百人となる見通し。」


ある企業の賃金上昇の報道をみると、そこで働いている人全ての賃金があがるような錯覚に陥りやすいですが、実際はファミリーマートのように「本社の社員」=正規労働者が対象というのが多いのではないでしょうか。
一般的に賃金を上げるということは企業の業績が良いからであり、つまり経済成長によるものであります。それにより社員の給与があがり、彼らが使うお金で内需を呼び起こしさらなる経済成長をすることも考えられます。
企業の経済成長により、社員の給与があがり、内需によって他にも影響を与える。
安倍内閣の想定はこれなのでしょうから、社員の給与があがるというとこまでは、
今年の春闘、来年の春闘でも実現していくものかもしれません。
そして、上がったお金を使って他に影響を与えるようになるのかもしれません。
しかし、ここで注目したいのは、例えばファミリーマートにおける賃金が上がらない非正規労働者についてです。
企業の業績が良くなろうが、正規労働者の給与が上がろうが、彼らがお金を使おうが、つまり、経済成長しようが、賃金が上がらない非正規労働者からすれば、何の関係もないということです。
仮にその非正規労働者が「貧困」状態であったら、それはそのままです。
経済成長によって「貧困」が解消されていく、わけではありません。
「貧困」状態の人は経済成長から取り残される状況が充分考えられるのです。
もちろん、経済成長によって税収が増え、それを元手に貧困問題に国が対処するという流れは考えられます。
しかし、僕はその流れが安倍内閣で発生することには甚だ懐疑的です。
安倍内閣がお金を使うのに熱心なのは公共事業であり、軍事です。
社会保険が毎年自動的に増えていく状況の中で、恐らく福祉という考え方でそれと同枠とされている貧困問題にお金を使うことには熱心でないことは推測されます。
「福祉には充分使っているだろう」と。
さらに、前段「選挙対策として」で取り上げた‘自民党の欲望’=浮動票には眠っていてほしいという欲望によっても、安倍内閣が貧困問題にお金を使うとは考えられない、と僕は思います。



以上で考察を終了します。
 この稿の主題は、「全世代に存在する無投票者の無投票に至る状況を考え、それに対して安倍内閣がどのような政策を取るのか」という近未来の予測でした。
 それまとめると、安倍内閣は、恒常的な低投票率を欲望する=貧困問題を解決することなく、むしろ促進させる政策を今後もとっていくだろう、といういささか大胆な仮説を立ててこの稿を締めたいと思います。