天皇制について

天皇崇拝の熱の最もあつかったのは軍人さんだそうである。しかし一枚の紙を裏返せば、天皇の名を最も乱用、悪用した者はすなわち軍人様なのであって、「軍閥」の命と言うのと実質的には何ら変わらなかったのである。ただこの命に従わざる者を罪する時にのみ、天皇の権力というものが用いられたのである。


『真実の「わだつみ」 学徒兵木村久夫の二通の遺書』P70


この一節は、昨日取り上げた『真実の「わだつみ」 学徒兵木村久夫の二通の遺書』に掲載されている木村久夫さんの遺書の中にあります。
これを読んだ時、思わずはっとしました。
天皇制って、それがあると都合の良い人・利益を受ける人が作ったものなんだ」
ということに。
こんなことさして新しいことでもなくよく言われていることであり、
僕も頭では理解していたつもりですが、初めて身体で感じることができたのです。
腑に落ちる、ストンと落ちる。そんな感じで。


軍人はなぜ天皇を崇拝するのかと言えば、そうしていることでエバれるからである、という木村さんの指摘は単純ですが、極めて的を射ているものだと思います。
軍人を政治家に変えてもいいし、元老に変えてもいいし、官僚に変えてもいい。
戦前日本という時代は、天皇制という発明を彼らの都合の良いように使い、むしゃぶりついた時代だったとは言えないでしょうか。
なぜ天皇制を作ったのか?
それは明治初年に権力を持った人間にとって、それがあると都合が良かったからです。
自分たちの権力を絶対のものにし、維持するために天皇制は必要だったのです。
ここで注意が必要なのは、彼らが作ったのは天皇ではなく、天皇制であるということ。
当然天皇自体は明治時代前にも存在していました。
幕末期から天皇を担ぎ出した彼らにとって、明治時代に天皇制を創ることは自然、というか必要なことだったのでしょう。それを如何に自分たちの都合のよいものに創るか。
それが彼らの腕の見せどころだったわけですが、それはそのまま日本の支配層―政治家、官僚、元老、そして軍人―の権利として認識され続けたのではないでしょうか。
つまり、天皇制にむしゃぶりつくという権利。
そして恐らく、天皇制とは実はどの時代も「むしゃぶりつかれるもの」だったのではないでしょうか。
古代から、平安時代鎌倉時代室町時代、戦国時代、江戸時代と、
常にそれぞれの時代に合ったむしゃぶりつかれ方をされてきた、「最高の愛玩具」だったと言ったら言い過ぎでしょうか。
戦前の天皇制もまた、その時代に合った愛玩具として存在し、
それが大日本帝国憲法であり、統帥権であり、赤子であり、万世一系であり、現人神であったと。
そして、再三言うように、それは支配層にとって都合のよい形であったわけです。
ただそれだけだったのだと、僕は思います。
「何が万世一系だ」
なんて言ったらおっかない人に怒られるのかもしれませんが、
これを読む人だけでなく、この世に存在している全ての人が、少なくとも現在までは万世一系ではないか(笑)。

万世一系
永久に一つの系統が続くこと。多くは皇室・皇統についていう。▽「万世」は永久にの意。「一系」は同じ血筋。
http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/idiom/%E4%B8%87%E4%B8%96%E4%B8%80%E7%B3%BB/m0u/

何千年前に天皇が存在していたのと同じ時に、僕の祖先も間違いなく存在していました。
この世に現在存在している人も当然同様です。
うちは天皇家と同じく古い系統なんだぞ!(笑)


軍人がどのように天皇制にむしゃぶりついたのかを端的に表す言葉が、
『真実の「わだつみ」 学徒兵木村久夫の二通の遺書』にあります。

「負けたと私は言わん。まだやって勝つか、負けるか、分からんですよ。あの時に上陸してご覧なさい。(略)九州、とくかく、やったならば、血は流したかもしれんけど、惨憺たる光景を、敵軍が私は受けたと思いますね。こういうことでもって、終戦になったんでしょう。だから敗戦とは言ってないよ」
「簡単な言葉で言やあ、負けたと思うときに初めて負けるんだと。負けたと思わなけりゃ、負けるもんじゃない」

『真実の「わだつみ」』東京新聞 加古陽治編著  P178より 
1955年にラジオ番組で語られた荒木貞夫元陸軍大将の言葉

荒木貞夫元陸軍大将の戦後10年経ったときの発言ですが、
これははっきりとした天皇批判でしょう。
「勝手に天皇が戦争を終わらせたけど、俺たちは承認してないよ。だから終戦であって、敗戦ではないんだよ」
ここに底流している感情は、「勝手に終わらせやがって」でしょう。
さらに「俺たちの時代を終わらせやがって」が続く、天皇制という愛玩具を手放した愚痴に聞こえてしょうがありません。
要は、軍人は戦前の天皇制における既得権益だったわけです。
軍人とは、天皇制から旨みという旨みをむしゃぶり尽くした、ただの利益獲得集団だったと言えます。
それは軍人のみならず、戦前の政治家も官僚も元老も、支配者層であるなら何ら変わることはなかったことでしょう。


天皇制というと、日本という国が誕生したから普遍的に存在したもののように、
思考の前に感じてしまうような印象がありますが、
何のことはない、時代に合わせた作り物だったのだ、ということに冒頭であげた引用文を読んで気づきました。
それでは現在の天皇制は誰の都合にあった作り物なのか??
と言えば、それは「アメリカ」というしかないように思います。
日本のアメリカ従属を決定づけているのは、もしかしたらこの事に依るのかもしれません。



ところで、僕は今上天皇のことが好きです。
美智子妃ともども、本当に素晴らしい方々だと思っています。
天皇を「祈りの存在」として規定され、それを日本全国回って実践されている姿から目を離すことができません。