個人的「小林秀雄の恵み」


今年は小林秀雄さん生誕111年、没後30年の年にあたるとのことです。
小林秀雄さんを特集した雑誌を2冊買いました。
芸術新潮」「考える人」です。


芸術新潮 2013年 02月号 [雑誌]

芸術新潮 2013年 02月号 [雑誌]

考える人 2013年 05月号 [雑誌]

考える人 2013年 05月号 [雑誌]


僕は小林秀雄さんの書かれたものをまったくと言っていい程読んだことがありません。
岡潔さんとの対談本「人間の建設」くらいでしょうか。
正確にいえば、これは小林秀雄さんが書かれたものではないですね(笑)。
「戦後を代表する批評家」といった形容句くらいでしか、
小林秀雄さんのことを知りません。
そんな僕ですが、小林秀雄さんのことが前から気になっていました。
それは、橋本治さんの『小林秀雄の恵み』という本を読んだことによります。


小林秀雄の恵み

小林秀雄の恵み

(この本は単行本が素晴らしい! 装丁が秀逸)



この本を橋本治さんが書かれた動機が秀逸です。
「『「三島由紀夫」とは何ものだったのか』という本で小林秀雄賞をいただいたから、小林秀雄について何か書かなくてはいけない、と思った」
といった橋本さんらしい、そっけなさと並走する礼節と誠実さによって『小林秀雄の恵み』という本は書かれた、とのことです。
この本を読んで、書かれていることを全て理解した、とは到底言えません。
今思い出しても何が書いてあったのか、ほとんど覚えていない体たらくな状態です。ただ、一つだけはっきり覚えている、というか、胸の中で今もしっかり息づいてドクンドクンしていることがあります。
それは「小林秀雄ってかっこいい」という想いです。


それ以来、小林秀雄さんは僕にとって特別な人となりました。
今回「芸術新潮」、「考える人」の2冊を買いました。
芸術新潮」は、‘美を見つめ続けた巨人’というタイトルで、
小林秀雄さんの骨董、絵画、音楽についてのことをメインにしたものでした。
「考える人」は、‘小林秀雄最後の日々’というタイトルで、
最後の対談となった河上徹太郎さんとの対談のテキスト、その音声CDが
メインになっていました。
両方とも小林秀雄さんを扱っていますが、その切り口は異なります。
様々な切り口に耐えられる幅の広さを小林秀雄さんがお持ちだった、
というのは容易に想像できます。
2冊を読んでみても、それぞれの切り口で、
小林秀雄さんが躍動している様が伝わってきました。
切り口は異なれど、2冊に共通していることもありました。
それは、小林秀雄さんの写真が多い、ということです。
生前様々なところに旅をされていたようですが、
その写真を2冊ともかなりの枚数掲載していました。
その理由は、見ればすぐにわかります。
かっこいいのです。
道を歩いている小林秀雄、桜を見ている小林秀雄、煙草を燻らす、
骨董を見詰める小林秀雄、、、
全ての小林秀雄さんがとにかくかっこいいのです。
写真映えがする、といってしまったらそれまでですが、
ジャケットを羽織ったネクタイ姿の小林秀雄そのものが「画」になっている。
どの写真もとにかくかっこいいのです。
そんなかっこよさにヤられたあとに、
骨董とか絵画、音楽などの小林秀雄さんの文章、小林秀雄さんについての文章などを読んだら、
それらもどうしようもなく魅力的に思えて来て、
「ああ、本物の骨董をみて勉強をしたい!」「絵画の勉強をしたい!」
「音楽を聴いて文章を書きたい!」
なんて、異常に興奮してしまったのです。
やる気が漲ってきてしまいました。


かっこよい男の人をみると、その人がやっていることを真似したくなります。
小林秀雄さんの場合、小林秀雄さんの真似するということは、
直で「勉強する」ということに繋がります。
骨董の勉強をし、絵画の勉強をし、音楽の勉強をし、文学の勉強をし。
そして、感じ、考え、文章を書く。
小林秀雄さんを真似るとは、「勉強をする」ことを前提とします。
その‘真っ当な進み方’がとても清々しく感じられます。
そして、照らされた‘真っ当な道’に導びかれることが、
幾層にも幾層にも重なり合った喜びとして感じられるのです。


2冊の雑誌を読みましたが、
依然小林秀雄さんが書かれたものはほとんど読んでいません。
(雑誌の書店でのパラパラ段階で興奮してしまったので、『Xへの手紙・私小説論』を買いましたが笑)
それでも、すでに小林秀雄さんのその佇まいから、
僕はとても貴重なものを受け取ってしまいました。
それは僕にとっての「小林秀雄の恵み」とこっそり言いたいです。


内田樹さんが以前こんなことをおっしゃっていました。
レヴィ=ストロースは学術論文を書き始める前には必ずこれ(カール・マルクス『ルイ・ボナパルトブリュメール18日』)か『経済学・哲学草稿』を何頁か読み返すことにしていると書いていました。知性に「がつん」とキックが入るらしいです。」


レヴィ=ストロースにとってマルクスがそうであるように、
僕にとって、それは小林秀雄さんだということを深く実感しました。
(‘佇まい’のレベルで逆上せ上がっている状態ですが笑)
そんな方に出会えてとても幸せに思います。