フィリピンと議論「訪問軍協定」

比大統領、自衛隊の基地利用に期待感 中国を牽制か


 フィリピンのアキノ大統領は5日、自衛隊が将来、南シナ海で活動する場合を想定し、給油などのために自衛隊がフィリピン軍の基地を使うことを認める「訪問軍協定」の締結に向けた議論を始めたい意向を示した。都内の日本記者クラブでの会見で述べた。
(中略)
アキノ氏は会見で「自衛隊南シナ海でパトロールをし、航空機が比軍基地での給油を求めた場合、施設を使わせるか」と問われ、「この件は(4日の)首脳会談で議論した。訪問軍協定に向けた議論を始めるつもりだ」と明言。「協定には上院の承認が必要」と留保はつけつつ、両国の戦略的な連携が進んでいくことを「歓迎する」と述べた。


朝日デジタル 6/5
http://digital.asahi.com/articles/ASH655D7YH65UHBI01J.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH655D7YH65UHBI01J


ここ数日、衆院憲法審査会においての憲法学者による「集団的自衛権違憲である」発言、それにまつわることが日本政治の中心的な話題でしたが、その陰で(?)今後重要な意味をもつであろうことがありました。
フィリピン・アキノ大統領の記者会見で明らかになった、自衛隊がフィリピン軍の基地を使用することを認める「訪問軍協定」についてです。
自衛隊が他国の基地を使用できるようになる協定で、調べた限りでは日本はどこの国ともこの協定は結んでいないようです。(検索で「2014年7月にオーストラリアと訪問軍協定の話があった」というブログを見つけましたが、そのソースになっているらしい読売新聞のサイトではそれについての記事はありませんでした)


安倍氏は現在国会で審議されている安保法制の答弁の中で、「一般的に海外派兵はしないが、例外としてホルムズ海峡の機雷除去は有り得る」ということを言っていました。何度もそのことに言及しています。
安倍氏は、なぜここまでホルムズ海峡機雷除去にこだわるのか・」
ということが話題になることもあるほどです。
僕が想像する理由はこのようなものです。
「ホルムズ海峡機雷除去という「例外」を作っておくことで、法運用後の行動拡大を想定している」
そしてその行動拡大の具体的な箇所は、南シナ海付近ではないかと想像しています。
中国対策ですね。


原油の輸送ルートこのような形で通常は南シナ海を通るようです。



http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g60214a08j.pdf


もし「ホルムズ海峡が機雷で通れなくなったら原油の輸入80%がストップし、国民生活に死活的影響がでる。存立危機事態であるから集団的自衛権を発動することができる」という、「例外」が認められれば、
中東からの原油輸送の大動脈になっている南シナ海における集団的自衛権行使も理屈的にはその「例外」の一つになりうるでしょう。
原油こなければ困るでしょ。南シナ海を通ってくるんだから」
おそらく、南シナ海での集団的自衛権が本命なのだと思います。
それを現在の国会審議の段階でださずに、あくまでホルムズ海峡の「例外」にこだわっている理由は、


1、 南シナ海における集団的自衛権というその目的があまりにはっきりしている=対中国は刺激が強すぎる
2、 「南シナ海を通らなくても、マカッサル海峡の方を通ればよい」と言われる。(図の緑線)


からではないでしょうか。
なので、あくまでホルムズ海峡という「例外」を作って、南シナ海の方は運用後にその「例外」の中に入れる、という方法を選んのではないかと想像します。
日本政府は、南シナ海集団的自衛権行使の場として想定しているとしたら、
今回のアキノ大統領の「訪問軍協定」というものは腑に落ちるのです。
「訪問軍協定」が結ばれ、自衛隊がフィリピンの基地を使えるようになったとしても、安保関連法案が国会を通って法になっていなければ、フィリピンにとっては無意味といっていいでしょう。
基地だけ使って、いざ中国と何かあったときに何もできないようだったら意味がないと思うでしょう。
「訪問軍協定」はあくまで安保法制が整い、日本が集団的自衛権を行使できるようになることを前提としたものです。
集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」の前提となる新三要件の第一に、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」とあります。
この「密接な関係にある他国」は、アメリカは当然ですが、オーストラリア、フィリピンも該当するといわれています。
「フィリピンが攻撃され、それが日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」
と判断されれば、集団的自衛権を行使できるわけです。
「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」
をホルムズ海峡の原油輸送もあてはまることにできれば、理屈的には南シナ海もあてはめることができるのではないかと思います。
ちなみに、フィリピンは「訪問軍協定」をアメリカとオーストラリアとすでに結んでいるとのことです。
アメリカ、フィリピン、オーストラリア、日本で南シナ海における対中国行動をすることを想定しているのでしょうか。


ただ、

フィリピンは憲法で外国軍駐留を禁じているため、実現に至るかどうかは不透明だ。

今回の5日までの来日でアキノ氏は、日本からの防衛装備品の移転協定の交渉開始で合意するなど、協力強化に努めた。ただ、アキノ氏の任期は残り約1年で、憲法で再選を禁じられている。その一方で、次期大統領候補として国民に人気の現副大統領は、中国との「距離感」が近いとされる。こうした情勢もにらみ、日本はフィリピンへの支援を急ぐ構えだ。


読売新聞 6/5
http://www.yomiuri.co.jp/world/20150605-OYT1T50097.html


という事情もあるようで、フィリピンの中国牽制のための話なのかもしれません。
衆院憲法審査会の話に隠れてしまっていましたが、とても重要なことのように思いましたので、
書いてみました。
素人の知識と貧しい情報なのでいろいろと誤解をしていそうですが。



と、この稿を書くのに調べている最中に興味深い記事を発見しました。


南シナ海危機は日本の存立危機事態ではない
東洋経済オンライン 6/6
http://toyokeizai.net/articles/-/72301


具体的な状況が分かり勉強になります。ご参考までに。


<追記>

南シナ海で海自とフィリピン軍が初の共同訓練


海上自衛隊が今月下旬、フィリピンに哨戒機を派遣し、南シナ海で、フィリピン軍と初めての本格的な共同訓練を計画していることが分かりました。訓練は災害救援活動を想定し、警戒監視などは行わないということです。

防衛省などによりますと、訓練には、海上自衛隊のP3C哨戒機1機とフィリピン軍の艦艇1隻や航空機1機が参加し、今月23日と24日、マニラの南西沖の南シナ海で、災害救援活動を想定した訓練を行うということです。
自衛隊は、ことし4月、アメリカ軍とフィリピン軍の上陸訓練を視察したり、先月には南シナ海で、フィリピン軍の艦艇と通信訓練を行ったりしていますが本格的な共同訓練は今回が初めてです。
南シナ海では、中国が、浅瀬の埋め立てを拡大させるなど海洋進出の動きを強め、各国が懸念を示しています。今回の訓練海域はフィリピンの領海より沖合の公海上ですが、警戒監視などの訓練は行わないということです。
フィリピンを巡っては、安倍総理大臣とアキノ大統領が、先週、東京都内で会談し、自衛隊とフィリピン軍の演習を拡大するなど、安全保障分野での両国の協力を拡充することなどを盛り込んだ共同宣言を発表しています。


NHK 6/8
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150608/k10010106881000.html