憲法審議会における「違憲」評価

安保法案 参考人全員「違憲」 衆院憲法審 与党推薦含む3氏


衆院憲法審査会は四日午前、憲法を専門とする有識者三人を招いて参考人質疑を行った。いずれの参考人も、他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法案について「憲法違反」との認識を表明した。自民、公明両党の与党が推薦した参考人を含む全員が違憲との考えを示したことで、衆院で審議中の法案は憲法の枠内だとの政府の主張に対する疑義が鮮明になった。


 参考人として出席したのは、自民、公明、次世代の各党が推薦した長谷部恭男(はせべやすお)早稲田大教授、民主推薦の小林節(こばやしせつ)慶応大名誉教授、維新推薦の笹田栄司(ささだえいじ)早稲田大教授の三人。


 長谷部氏は、安保法案のうち集団的自衛権の行使を容認した部分について「憲法違反だ。従来の政府見解の論理の枠内では説明できず、法的安定性を揺るがす」と指摘。小林氏は「私も違憲だと考える。(日本に)交戦権はないので、軍事活動をする道具と法的資格を与えられていない」と説明した。笹田氏も「従来の内閣法制局自民党政権がつくった安保法制までが限界だ。今の定義では(憲法を)踏み越えた」と述べた。


 いずれも民主党中川正春委員の質問に答えた。法案提出前の与党協議を主導した公明党北側一雄委員は「憲法の枠内でどこまで自衛の措置が許されるかを(政府・与党で)議論した」と反論した。


 国際貢献を目的に他国軍支援を随時可能にする国際平和支援法案が、戦闘行為が行われていない現場以外なら他国軍に弾薬提供などの後方支援をできるようにした点について、長谷部氏は「武力行使と一体化する恐れが極めて強い。今までは『非戦闘地域』というバッファー(緩衝物)を持っていた」と主張した。


 小林氏は「後方支援は特殊な概念だ。前から参戦しないだけで戦場に参戦するということだ。言葉の遊びをしないでほしい。恥ずかしい」と述べた。


 審査会は、参考人立憲主義改憲の限界、違憲立法審査をテーマに意見を述べた後、各党の委員が質問する形で進められた。


 安保法案をめぐっては、憲法研究者のグループ百七十一人が三日、違憲だとして廃案を求める声明を発表したばかり。安倍政権の憲法解釈に対し、専門家から異議が強まっている。



東京新聞 6/4
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015060490140427.html


本日の安保法案関連のメイントピックとなったであろう記事です。


まず基本的な確認ですが、有識者三名、長谷部恭男(はせべやすお)早稲田大教授、小林節(こばやしせつ)慶応大名誉教授、笹田栄司(ささだえいじ)早稲田大教授の三人は各党に推薦されたそうです。
長谷部恭男早稲田大教授 ⇒ 自民党公明党、次世代の党
小林節慶応大名誉教授  ⇒ 民主党
笹田栄司早稲田大教授  ⇒ 維新の党


この記事の最大の注目点の一つは、与党が推薦した長谷部恭男早稲田大教授も「集団的自衛権違憲である」と発言した点でしょう。
これをもって、「長谷部教授が自民党公明党を裏切った!」というのは早計というものです。
なにせ長谷部教授は以前より「集団的自衛権違憲である」ということを表明してきている方だからです。

集団的自衛権の議論をするとき、この言葉がいろいろな場面で使われていることに気を付けなければなりません。第一に、自国の安全のために、複数の国家がそれぞれ個別的自衛権を行使して、共通の敵と戦うという意味で使われる。次に、国際社会の平和と安全のために、自らの自衛権にしたがって武力を行使し友好国を援助する場合に、集団的自衛権と言われることがある。
 二番目の集団的自衛権は、他の国を守り、国際社会の安全を実現しようとしているのですから、実は自衛権ではありません。従来、日本政府は憲法九条のもとでは集団的自衛権の行使は禁じられていると説明してきました。このとき禁じられているのは二番目の集団的自衛権です。一番目の行使は禁じられていません。
 これは合理的な憲法解釈だと私は思います。憲法九条は表向きはおよそ戦力を持つことを禁じています。武力は行使するな、というのです。それでもやはり国民の生命と自由と財産を守るために避けられない武力の行使はあり得る。それは自国を守るための武力行使であるというのが従来の政府の見解でした。
 この解釈を変更してしまうと、憲法九条の意味がほとんど無くなってしまう。ところがみなさんもご存知のとおり、2014年7月の閣議決定では「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ときには、他国による武力攻撃に対処するために、日本は武力を行使できるとしました。


『高校生と考える日本の問題点』左右社 P126、127


長谷部早稲田大教授はこのように書かれています。
「他国を守る集団的自衛権の禁止を合理的な憲法解釈」といっています。
また、

(考論 長谷部×杉田)安保法制、安倍政権の「話法」から考える


朝日デジタル 5/24
http://www.asahi.com/articles/DA3S11770977.html


における長谷部教授の安倍氏に対する批判は鮮烈であり、強烈です。
ここまでくると、「このような人をなぜ自民党公明党が推薦したのか?」という疑問がわいてきます。
余裕でしょうか。
その疑問に答えてくれる記事を発見しました。

関係者によると、自民党参考人の人選を衆院法制局に一任したという。


産経新聞 6/4
http://www.sankei.com/politics/news/150604/plt1506040018-n1.html


自民党自らが探したわけでなく、衆院法制局がその任を受けたようです。
そこで衆院法制局とはどのような組織か、ということが気になります。

衆議院法制局とは


衆議院法制局は、衆議院議員の立法活動を補佐するため、衆議院議長の下に置かれた機関です。
衆議院議員などからの依頼を受け、議員立法の立案や照会への対応を行っています。


組織
衆議院法制局は、衆議院議員の立法活動を法制的側面から補佐する組織です。
衆議院本会議の同意を経た上で、衆議院議長によって任命される法制局長をトップとする衆議院の法律顧問ともいうべき組織ですが、職員数82名という大変に小さな組織です。前身である法制部は、昭和22年の日本国憲法の施行とともに設置されました(翌昭和23年に衆議院法制局として拡充強化されました)。日本国憲法によって「国権の最高機関」「国の唯一の立法機関」とされた国会が、行政府と対抗して十分な立法機能を発揮することができるよう、創設されたものです。
総員82名のうち総務部門や図書管理部門を除く60名程度が立案を担当する職員ですが、それぞれ、内閣委員会、法務委員会、財務金融委員会厚生労働委員会といった委員会別に担当分野を分けた12の課に配属されており、一つの課は課長を含めて4〜5名で構成されています。


職務とその特徴
衆議院法制局の職務は、具体的には、?衆議院議員が提案者になる法律案(いわゆる議員立法)の立案や、?法律案に対する修正案の立案のほか、?それらの法律案・修正案の国会審議の際の答弁の補佐、?さらにはその他一切の法律問題に関するアドバイスなどです。
衆議院法制局の職務の特徴は、自分たちが実行したい政策を立案するのではなくて、政治家が目指す政策について、その合理性・妥当性を検討し、アドバイスすることです。
したがって、依頼者はすべての国会議員であり、様々な政党のお手伝いをします。同じテーマについて、複数の政党から依頼を受けて、別々の法律案を立案することも稀ではありません。そのような場合には、政治的な利害の対立もありますから、ある会派の依頼議員との間で秘密にすべき事項については、他の会派に提供することなく、厳格な守秘義務を特に遵守して、作業を進めるようにしています。
このような「公平」「中立」な形で、議員を補佐し、その目指す政策を、法律案という「一定のルールに従って作成される、特殊な形式の日本語」に変換していくお手伝いをする組織、それが衆議院法制局です。


衆議院法制局
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/html/h-syokumu.html


とのことで、官僚ですね。
どの党からも「公平」「中立」な組織とのことです。
この組織が長谷部教授を推薦したようです。

「長谷部氏でゴーサインを出した党の責任だ。明らかな人選ミスだ」(自民党幹部)


http://www.sankei.com/politics/news/150604/plt1506040018-n1.html


さらにその推薦を最終的に了承したのは自民党のようです。
そこに何があったのか分かりませんが、なかなか興味深い流れのような気がします。


衆議院インターネット審議中継」http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=44973&media_type=


で審議会の音声を聴くことができます。
長谷部恭男早稲田大教授、小林節慶応大名誉教授、笹田栄司早稲田大教授が、
集団的自衛権違憲である」
と語った部分は、1:17:55あたりからです。
民主党の中川議員の質問に答える形で発せられた内容です。
こういうのをみていると、いかに議員の質問が大切かがわかります。
中川氏が質問しなければ冒頭の記事はそもそもなかったわけです。
現在の国会審議でも、共産党の志位氏をはじめとする議員の質問によって様々の事実が判明したり、政府の見解を聞くことができます。
また、記事にもあった公明党の北側氏の発言は、1:39:30〜あたりから始まります。


憲法審議会というものを詳しく知らなかったのですが、
聞いてみるとかなり勉強になる印象です。
集団的自衛権のことだけではなく、一票の格差日本国憲法96条のことについても議論されています。
一度に3人もの憲法学者の方の話を聴くことができるのもお得感がありますし、議員の憲法観、注目している点なども興味深いと思います。
2時間半と長いのですが、オススメです。


ちなみに、憲法審議会における3人の憲法学者の「集団的自衛権違憲」という評価に関する政府の反応は、

「法的安定性や論理的整合性は確保されている。全く違憲との指摘はあたらない」


産経新聞 6/4
http://www.sankei.com/politics/news/150604/plt1506040017-n1.html


今後の国会審議にどのように影響するか注目です。