「思考がネット化している」


「思考がネット化している」


先日ラジオから流れてきて気になった言葉です。
この言葉の主は、日刊ゲンダイ社長の下桐治氏。
新聞とインターネット上の情報について話しているときに出てきた言葉で、ハッとさせられました。
「思考自体、思考方法そのものがネット化している」
それまでに考えたことのない考え方でした。
そうか、なるほど、思考方法自体がネット化しているのか。様々なことが腑に落ちた思いがしました。


ラジオを全て聴くことができなかったので、下桐氏がどのようなことを「思考のネット化」として考えているのかは詳しく確認できませんでした。
「ネット化」という言葉がキーになると思いますが、僕なりにその意味を考えてみると、


・すぐさま反応し、すぐに「意見」を発する ⇒ じっくり時間をかけずに、スピードを重視する
・自分の考え、思いに近いもののみを参考にする ⇒ 多分に思い込み
・知識は借りるもの(wikiなどから) ⇒ 自分で「得る」必要性を感じない


などが思いつきます。
このようなものを前提として物事を考えることを「思考がネット化する」ということではないか。
今週初めにそのことを実感できることがありました。
大阪都構想住民投票です。(ちなみに僕は「大阪都構想」なんていう言葉は使いたくありません。今回の住民投票は「大阪市廃止構想」の方が適切だったのではないでしょうか)


5/17(日)に住民投票は行われました。
様々な思いで僕は注目していました。心の中では「賛成が多数になるのかな」と思っていました。
事前の新聞社の調査では、反対の方が多数という結果が出ていましたが、
日経新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS05H25_V00C15A4PE8000/
大阪における橋下氏の「人気」を推し量るのが難しい東の果てに住んでいる者として、「逆転するんじゃないかな」と想像していました。事前の調査が投票日の1ヶ月以上前ということもあり。
結果はそんな想像とは逆のものになりました。


反対 :70万5585票(50.38%)
賛成 :69万4844票(49.62%)
投票率:66.83%


僅差中の僅差ですね。これほどの規模で、これほどにせった投票結果をみるのは初めてです。
(隣り村の選挙では数票差で当選、落選というのはありますが笑)
10,741差なので、反対5,000票が賛成にまわっていたらほぼ同数になっていたことになります。
1,400,429票という母数を考えると、この住民投票のスリリングさを感じずにはいられません。
また、反対、賛成、投票率をみると、反対1/3、賛成1/3、棄権1/3とほぼ同数であることが分かります。何とも難しい結果になった印象があります。


さて、この稿では住民投票の結果について取り上げたいわけではありません。
僕にとって結果は「そうなのか〜」くらいなものです。
ここで考えたいのは、20:00に投票が終わった直後に出された出口調査、そしてそれに対する反応についてです。



NHKが行った出口調査の画像です。
各社出口調査を行っていますが、同じような傾向を示しています。
つまり、「高齢者が反対し、若者は賛成した」という傾向です。
これをもって20:00以降、有名無名を問わず様々な人がテレビやラジオなどのメディアで、ツイッターで発言をしていました。
中でも話題になったのが、評論家・宇野常寛さんのツイートです。



「情弱」とは、「情報弱者」を意味します。
「なんかすごいことを言ってるな」というのが率直な印象ですが、
僕がより気になったことは、投稿した22:53の時点でどのような情報をもとに宇野さんがこのツイートをしたのだろうか? ということです。
投票が終わって約3時間後の22:53の時点における情報といったら、出口調査と開票速報(NHKが22:34に「反対多数」を速報。「この時点で開票率81%。賛成は57万1395票、反対は56万5093票で、賛成票が6302票上回っていた」http://www.asahi.com/and_M/interest/entertainment/Cfettp01505170059.html)以外になかったのではないかと思います。
NHKの速報は、「反対多数」のみの情報でしたので、宇野さんのツイートのもとは出口調査によっているものと想像されます。
出口調査による「高齢者が反対し、若者は賛成した」という傾向をもとにしたのでしょう。


僕はこの「迂闊さ」に正直驚きました。
出口調査というものがどういうものか実際にみたことがないので分かりませんが、
それほど信用できるものなのかと、以前より思っていました。
それは、結果に対して正確な情報になるのか?ということとともに、性別や年齢なども同数で行っているのだろうか?ということも含みます。
NHK出口調査もしっかり男性、女性、各年齢層を同数にしていたのでしょうか。
そもそも出口調査という、その場の状況が大きく左右する調査において、しっかり性別、年齢層などを制御できるのでしょうか。
例えば、HNKの出口調査でも、反対が多い高齢者の総数が500人に対し、賛成が多い若年層の総数が1000人だったならば、まったくグラフの通りの結果とは違ったものになるはずです。
僕が考える宇野さんの「迂闊さ」とは、´あやふやな´出口調査をもとに、結論のごとくの発言をしてしまった、ということです。


このことが頭にあった5/20(水)に冒頭にあげた、
「思考がネット化している」
という下桐氏の言葉が耳に入ってきました。
「ああ、宇野さんの思考はネット化しているのか」
と腑に落ちました。
すぐに反応することを重視し、その反応内容は少ない情報から抽出した多分に思い込みである。
宇野さんのツイート内容ほどの発言をするなら、出口調査の「高齢者が反対し、若者は賛成した」という分かりやすいものでは到底足りないはずです。
大阪市の人口、年齢層、投票した人の年齢層など、正確な情報が必要なはずです。
そのことは宇野さんほどの人なら理解しているとは思いますが、「迂闊」にも少ない情報で重大な結論をツイートしてしまうところに、「思考がネット化している」の根深さをみた思いがします。
(「情弱高齢者」と宇野さんはいっていますが、この場合、宇野さんこそ「情弱」だったのですね。なにせ出口調査という情報にのみだったのですから)


「思考がネット化している」
これはすでに様々な状況で進んでいるのだろうなあ、と思います。
これを一つの軸において、世の中眺めてみたいと思った次第です。