自民党、だいじょうぶか?

自民がテレ朝・NHK幹部聴取 BPO申し立て検討も


自民党の情報通信戦略調査会(会長=川崎二郎・元厚生労働相)は17日、番組内容に問題があったとしてテレビ朝日とNHKの幹部から事情聴取を行った。自民は、テレ朝の社内検証が不十分だと判断した場合、第三者機関の放送倫理・番組向上機構BPO)に申し立てることも検討する。NHKは指摘された番組について、BPOに報告する方針を示した。


 自民が個別の番組で、テレビ局幹部から直接、事情聴取するのは「極めて異例」(党関係者)という。許認可や行政指導の権限を持つ政権側がテレビ局に圧力をかければ、報道の自由が侵されることになる。
 自民が問題にするのは、テレ朝では、「報道ステーション」でコメンテーターで元官僚の古賀茂明さんが「菅(義偉)官房長官をはじめ、官邸のみなさんにはものすごいバッシングを受けてきた」と発言した点。
菅氏や自民は事実関係を否定している。
 NHKでは、「やらせ」が指摘されている「クローズアップ現代」だ。


 調査会は党本部であり、非公開で行われた。テレ朝は福田俊男・専務取締役、NHKは堂元光・副会長らが説明した。川崎氏らによると、テレ朝は調査会で、古賀氏について「ニュースと直接関係のない話をされた。番組後、古賀さんに抗議した」と説明。NHKは自主的な調査の中間報告をまとめた経緯を明らかにした。自民は「世論に報道への圧力と受け取られないため」(党幹部)として、基本的に説明を受ける場とし、踏み込んだ質疑はしなかったという。


 調査会後、川崎氏は「事実を曲げた放送がされるならば、(放送法などの)法律に基づいてやらせていただく」と語った。さらに、BPOの対応に納得がいかない場合を念頭に、「(政府には)テレビ局に対する停波(放送停止)の権限まである」と踏み込んだ。調査会は、元総務相佐藤勉国会対策委員長をトップとする「放送法改正に関する小委員会」で議論を続ける。


 自民は昨年末の衆院選の際、テレビ各局に対して「公平中立、公正の確保」を求める文書を送るなど、報道を牽制(けんせい)する動きが続いている。
 こうした自民の対応には、与党内にも懸念の声がある。自民党の閣僚経験者の一人は「党本部に呼びつけて事情を聴くと、圧力と取られても仕方がない」と語り、公明党井上義久幹事長は17日の記者会見で「(報道への)介入ではないかという意見もある。自民党はきちんとお答えになった方がいい」と注文した。(安倍龍太郎


朝日新聞 4/17
http://www.asahi.com/articles/ASH4K3HBRH4KUTFK004.html


テレビ朝日NHK自民党に聴取された件について、いろいろな報道を見てみましたが上記の朝日新聞の記事が最も詳細だったので引用しました。


この件の流れを確認します。
4/14(火) 自民党の情報通信戦略調査会がNHKテレビ朝日に聴取する方針を固める。
http://mainichi.jp/select/news/20150415k0000m040143000c.html
4/17(金) NHKテレビ朝日が聴取に応じる


その前の4/10(金)にはこのような報道がありました。

テレビ朝日:衆院選前、自民が中立要請 アベノミクス


テレビ朝日の「報道ステーション」でアベノミクスを取り上げた報道に対し、自民党が「特殊な事例をいたずらに強調した」と批判し、「公平中立な」番組作りを要請していたことが分かった。自民党は要請を認め「圧力はなかった」と説明するが、編集権への介入との指摘も出ている。
(後略)


毎日新聞 4/10
http://mainichi.jp/select/news/20150410k0000m040142000c.html


昨年の11月26日に自民党テレビ朝日報道ステーション」の内容について要請書を出した、という内容です。
アベノミクスという経済政策について「特殊な事例をいたずらに強調した」のがその理由のようです。
この前の11月20日には、在京テレビ局に選挙報道の公平中立などを求める要望書を自民党は出しています。この要望書のきっかけになったと思われるのが、さらにその前の11月18日に放送されたTBS「ニュース23」に安倍氏が出演し、安倍政権の経済政策についての街頭インタビューに対し「(テレビ局の)皆さん(人を)選んでおられる」と声を荒げて批判したことだろうと思われます。ややこしいので補足しつつ整理しますと、


11月18日 安倍氏、TBS「ニュース23」に出演し、街頭インタビューにケチをつける
11月20日 自民党、在京テレビ局に選挙報道の公平中立などを求める要望書を出す
11月26日 自民党テレビ朝日報道ステーション」に要請書を出す
3月27日  古賀茂明氏、テレビ朝日報道ステーション」で「官邸圧力」発言
3月30日  菅官房長官、古賀氏の「官邸圧力」発言を否定
4月10日  昨年11月26日にテレビ朝日報道ステーション」に要請書を出したことが発覚
4月14日  自民党の情報通信戦略調査会がNHKテレビ朝日に聴取する方針を固める。
4月17日  NHKテレビ朝日が聴取に応じる


といった流れでしょうか。半年ほどの流れになります。
こうみると、半年のうちに「要望書を出す ⇒ 呼び出す」に変化していて、自民党の行動は大胆になっている印象を受けます。
今回の「テレビ朝日NHK呼び出し」の報道をみて率直に思ったことは、
「なぜ自民党の行動は大胆になっているのか?」
ということでした。
政府、自民党の報道機関への圧力に関しては、11月20日の在京テレビ局への要望書の時も散々言われました。その後も止むことなく、今年に入ってもそのことは言われ続けています。
安倍氏は3月12日の衆院予算委員会民主党・細野議員の昨年11月の「ニュース23」の安倍氏の発言についての質問に対して、「(番組への)圧力と考える人は世の中にいない。番組の人たちはそれくらいで萎縮してしまう人たちか。極めて情けない」と発言しています。http://www.asahi.com/articles/ASH3D5PYLH3DUTFK00R.html
そのような状況で、3月27日のテレビ朝日報道ステーション」で古賀茂明氏の「官邸圧力」発言があり(30日に菅官房長官が否定)、4月10日にテレビ朝日報道ステーション」への要望書が発覚し、4月14日にテレビ朝日NHKの呼び出し、4月17日に聴取となりました。
「なぜ、このような注目されている状況において自民党は行動を大胆にしたのか?」
ということです。
僕がその疑問に対してもちうる現状の解答は、
「危機的な自民党
といったものです。
自民党、危ないんじゃないか。


世間的に「政府、自民党は報道機関に圧力をかけているのではないか?」という疑惑というか、視線があるわけです。政府、自民党がどう言おうと。
そのような状況において、それを証明するかのような行動=テレビ朝日NHKの呼び出しをなぜ自民党はしたのか。彼らはここにおいても、「世論に報道への圧力と受け取られないため」などと語り、「圧力」ではないことを強調しています。
昨年11月から、「圧力ではないか?」という声に対し、政府、自民党は常に「圧力ではない」を繰り返してきて、今回においても「圧力ではない」と言います。
しかし、彼らのここ半年の行動をみていると、その行動は「圧力」と一般的にみられてもおかしくないでしょう。
今回の呼び出しは象徴的です。
3月27日に「報道ステーション」の古賀氏の「官邸圧力」発言を問題視して自民党は呼び出したようですが、その呼び出しをもって「圧力」を証明してしまったわけです。
世間の人たちに「ああ、こうやって圧力をかけていたのか」という「実例」を見せてくれたようなものです。ここで「圧力はかけていない」と政府、自民党が言おうと、「なにをおっしゃいます」というのが一般的な受け取り方でしょう。繰り返しますが、呼び出しそのものが「圧力」の「実例」なのですから。
政府、自民党の意思の問題ではありません。
決定権を持つもの、持たれるものがあり、持つものが持たれるものを呼び出したという状況の問題です。
放送の許認可権をもつ政府(総務大臣)と同体である自民党が、許認可権を与えられる放送局を呼び出すというその状況です。
ここには「圧力」のある、なしという選択の余地はなく、否応なしに存在してしまうのです。


僕はこのような簡単な流れを自民党が想像できなかったことに驚きを感じています。
自分たちが「圧力ではない」といえば大丈夫と踏んだのでしょうか。
本当に疑問です。
そのような想像力を働かすことができなかった自民党に声をかけるなら、「大丈夫か?」です。
なぜこれほどまでに愚かな行動をしてしまったのでしょうか。
推測するしかないのですが、僕は三つのことを考えます。


一つは、小さなものを覆い隠すために大きなものを引き起こした、ということ。
昨年来の「圧力疑惑」を打ち消すために、「圧力そのもの」を実践してしまったのではない、ということです。
もう一つが、権力に酔っているということ。
今回の呼び出しは、政府ではなく自民党から出されています。その理由に放送法をだしていますが、それなら自民党ではなく総務省が呼び出すのが筋でしょう。自民党は与党であっても、政府ではありません。放送法を管轄するものではありません。ここに自民党の権力への強い欲望を感じます。本来政府がもつ権力を「私たちにもあるもの」ということにして、それを行使する快感を味わいたかったのではないでしょうか。そんな低レベルな欲望によるものであったのではないか、と。
最後は、超近視眼的に「報道ステーション」を追及したかった、ということ。
自民党にとって「ニュースステーション」当時から、「報道ステーション」は仇敵であるということは一般にも知られています。自民党は、古賀氏の「官邸圧力」発言を「報道ステーション」に打撃を与えるかっこうの材料になる、と考え、単純にそれを実行したのではないか、ということです。それがどういう状況を生むかを想像せずに(できずに)。


いずれにせよ、頭の悪いことに変わりはありません。
僕はこのような状況をもって、自民党は危機的な状態にある、と考えます。
このような頭の悪さを恥ずかしげもなく披露してしまう組織がまっとうなことをできるはずもありません。
これまでも政府、自民党の言動において、頭の悪いことは多々ありましたが、今回はその最たるものだと僕は思います。
今回の呼び出しの件を普通に受け取れば、ほとんどの人は「圧力」を感じることでしょう。
積極的に反対の意思を表明する人はその人たちの中でもそれほどいないかもしれません。
しかし、世論調査でそれはあらわれることでしょう。
今回の件は、政府、自民党のこれまででの最大のミスだと僕は思います。



【参考】

報道ステーション:古舘キャスターと古賀氏のやりとりは…


全文 毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20150328k0000e040223000c.html

放送法」でTV局を牽制 そもそもの理念は?


朝日新聞 4/16
http://digital.asahi.com/articles/ASH4H5W9VH4HUCVL01P.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH4H5W9VH4HUCVL01P