「邦人救出に自衛隊派遣も」報道


早速出てきました、「イスラム国」人質事件に関しての自衛隊派遣について。

邦人救出自衛隊派遣も 政府が想定問答、法整備条件で


過激派組織「イスラム国」による人質事件を受け、今国会で成立をめざす安全保障法制との関連について、政府内で記者会見や国会質疑の想定問答集が作られていたことが分かった。今回の事件は、集団的自衛権の行使を認めた閣議決定で定められた「武力行使の新3要件」を満たすケースではないとする一方、法が整備されれば人質救出のために自衛隊を海外に派遣できるようになるとしている。▼3面=安保法制に課題


 想定問答集は政権の指示で国家安全保障局が作成し、関係省庁に示していた。


 昨年7月の閣議決定で定められた「武力行使の新3要件」では、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に限って武力を使うことを認めている。想定問答では、今回のような人質事件が、3要件を満たす事態かどうかについて「許しがたいテロ行為であるが、そのことをもって新3要件を満たすとはいえない」と明記。日本が武力を使って「イスラム国」と戦うために、自衛隊を派遣することはできないとしている。


 「『イスラム国』に空爆している米軍に対し、後方支援が可能となるか」については、「他国軍隊に必要な支援活動を実施できるよう法整備の検討を進めている」として、法的には可能になると指摘。一方で「イスラム国」関連では「今後とも非軍事分野において積極的な支援を行っていく」と一線を引いた。


 想定問答は今回のような事件について、日本人救出のために自衛隊が派遣できるかにも言及。「『国家に準ずる組織』は存在しないとの考え方を基本とし、領域国の同意に基づく邦人救出などの警察的な活動ができるよう法整備を進める」と明記。「イスラム国」が活動するイラクやシリアなどの領域国が同意すれば、自衛隊の救出活動は認められる可能性があるとした。


朝日デジタル 1月28日05時00分
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11573187.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11573187


【参考】
邦人救出自衛隊も 安保法制整備なら 政府想定問答」朝日デジタル1/28
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11573121.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11573121


<要点>


・ 今回の事件は、集団的自衛権の行使を認めた閣議決定で定められた「武力行使の新3要件」を満たすケースではないとしている。
⇒ 日本が武力を使って「イスラム国」と戦うために、自衛隊を派遣することはできないとしている。


・ 法が整備されれば人質救出のために自衛隊を海外に派遣できるようになるとしている。


・ 「『イスラム国』に空爆している米軍に対し、後方支援が可能となるか」については、「他国軍隊に必要な支援活動を実施できるよう法整備の検討を進めている」として、法的には可能になると指摘。


・ 「イスラム国」関連では「今後とも非軍事分野において積極的な支援を行っていく」と一線を引いている。


・ 「『国家に準ずる組織』は存在しないとの考え方を基本とし、領域国の同意に基づく邦人救出などの警察的な活動ができるよう法整備を進める」と明記している。


・ 「イスラム国」が活動するイラクやシリアなどの領域国が同意すれば、自衛隊の救出活動は認められる可能性があるとした。



といった感じでしょうか。
気になる点をいくつか考えてみたいと思います。

 「『イスラム国』に空爆している米軍に対し、後方支援が可能となるか」については、「他国軍隊に必要な支援活動を実施できるよう法整備の検討を進めている」として、法的には可能になると指摘。一方で「イスラム国」関連では「今後とも非軍事分野において積極的な支援を行っていく」と一線を引いた。


まずこれですが、
イスラム国」への空爆には参加できないが空爆実施国の後方支援は法整備でできると。ただ、「イスラム国」関連のことは「今後とも非軍事分野で支援していく」と。
これは一体何を言っているのでしょうか?? この二つの文章はつなげて成立するのか??
僕には真逆のことを言っているような気がします。
簡略化すると、「空爆の後方支援はするが、非軍事分野で支援していく」となります。
ますます意味が分からない。
イスラム国」空爆と「イスラム国」関連ではないのか??
これは明らかに言葉のごまかしのように感じます。


また、停戦前のホムルズ海峡での機雷処理(=軍事行動)に並々ならぬ意欲を見せている安倍政権において、
その後方支援が停戦後の非軍事分野でのものであるとは到底思えません。
昨年7月の閣議決定内容に、

国連安保理決議に基づく多国籍軍などへの補給など「後方支援」を拡大する。他国の武力行使と一体化しないように設けた「戦闘地域」と「非戦闘地域」の線引きをなくし、非戦闘地域に限ってきた自衛隊の活動場所を広げる。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220087.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11220087

というものがありました。
これを下敷きにすれば、当然上記の後方支援はこの範囲で行われます。
この範囲といいながら、これまでの戦闘地域、非戦闘地域両方という極めて漠然とした特定できない範囲です。
要は現在想定する「戦闘地域」でも後方支援ができますよ、と。
さらに現在の自衛隊の後方支援には、非戦闘地域での給油、給水、食事、人や物品の輸送などがあり、武器や弾薬の提供は含まれませんが、
武器・弾薬提供を安倍政権は想定しているようです。
(47NEWS http://www.47news.jp/47topics/e/255621.php
戦闘地域で武器・弾薬の提供ができるようになるわけです。
それをもってして、「他国との武力行使との一体化」でないといえるのでしょうか?

武力行使との一体化
自らは直接の武力行使をしていなくても、他国軍の武力行使との密接な関係から、日本も武力行使をしていると評価される事案。政府は海外派兵の条件として、自らの武力行使の禁止に加え、「他国の武力行使と一体化しない」ことを挙げてきました。「戦闘地域で活動しない」ことは「一体化」しないための担保です。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-06-04/2014060401_01_1.html

一万歩譲ってこれが武力行使との一体化でないとしても、例えば、「イスラム国」は「日本は後方支援だから攻撃しないでおこう」と放っておいてくれるはずがありません。(今回の人質事件において、「イスラム国」が人道支援として出すことを表明した2億ドルを、「イスラム国」に対する敵対行為だ、と認識したことは忘れてはいけません)
むしろ、後方支援=兵站は最も狙われる対象ではないでしょうか。
そうなれば、否応なしに自衛隊は戦闘に入ります。戦争の開始です。
「後方支援をしたいだけです。戦争をしたいわけではありません」
という言葉は本当でしょう。しかし、戦闘地域での後方支援は自衛隊が高い確立で戦争に突入することを意味するものと僕は考えます。


・ 言葉にごまかしがある。
・ 後方支援の法整備は、戦争に直結する恐れがある。


の2点が気になりました。



さらに、もう一箇所。

想定問答は今回のような事件について、日本人救出のために自衛隊が派遣できるかにも言及。「『国家に準ずる組織』は存在しないとの考え方を基本とし、領域国の同意に基づく邦人救出などの警察的な活動ができるよう法整備を進める」と明記。「イスラム国」が活動するイラクやシリアなどの領域国が同意すれば、自衛隊の救出活動は認められる可能性があるとした。


これも言葉のごまかしがありますね。
「警察的な活動」
「的」がいかにも怪しい。「人質救出だから警察だ」とでも言いたいのでしょうか。
今回の人質事件を例にとります。
自衛隊が「警察的な活動」をしたとしたら、後藤さん、湯川さんは即座に殺害されていた、と考えるのが自然ではないでしょうか。
それは、「警察的な行動」を「警察的な行動」とみずに、ただの「軍事行動」と「イスラム国」が判断するだろう、という「普通」の感覚によります。
こちらが「警察的な行動です!」といっても、相手は「軍事的な行動」と思うのが「普通」でしょう。
「的」をつけているところに、それが軍事行動に繋がることを想定していることが伺えます。
当然人質殺害は想定されます。さらに、「警察的な行動」をする自衛隊に対する攻撃も想定されます。
そうなれば否応なしに戦闘へ突入です。
「警察的な行動」は戦闘を想定したものではないでしょう。「人質救出と戦闘が関係あるはずない」と政府はいうでしょう。
しかし、現実は「警察的な行動」が戦闘に直結することは明らかなことです。
あくまで国ではない相手に対する「警察的な行動」なので、国と国の対立状態である戦争ではない、ということなのかもしれませんが、
海外における自衛隊の戦闘行為であることに違いはありません。
厳密な意味で戦争ではないのかもしれません。
しかし、そもそも他国の一般人が「警察的な行動」と「軍事的な行動」の区別をしっかり理解することはなかなか難しいでしょう。
それにより、「戦後70年間一度も戦闘行為を行わず、ひとりも殺したことのない日本」という‘ブランド’に傷をつけることになります。
「日本は普通の国」とみなされます。(「普通の国」は安倍氏にとっては嬉しいのでしょうが)
そのことの国益の損失は大きいと僕はみなしています。そして世界にとっても大きな損失となると考えています。
(以前書いた「資格をもつ国」参照 http://d.hatena.ne.jp/narumasa_2929/20150121/1421773419


「警察的な行動」を可能にする法律を望む人は、
「この法により抑止力が働き、日本人を人質にとるような事件がなくなる」
と言いたいのかもしれません。
(どこかで聞いたことのあるような話ですが)
しかし、現在の世界最高の抑止力を持っているアメリカ相手に、「イスラム国」は楯突いてアメリカ人を誘拐し、3人を殺害しました。
抑止力は働いていません。
また、「警察的な行動」をできることが人質救出に効果的なのか、あやしいものです。
現にアメリカも軍による人質救出に失敗しました。
「今回のような人質事件で、自分たちの力で日本人を救出できなくていいのか!」
という声も想定できますが、自衛隊が「警察的な行動」をすることは効果的なのでしょうか?
アメリカもイギリスもフランスもそのほかの国も、「イスラム国」に人質を取られて、「警察的な行動」(軍事行動)で救出した国はただのひとつもありません。
「他国がやったことのないことを日本はできる!」という意気込みは買いますが、
他国で「警察的な行動」をできるようになれば人質を救出できる、ということではないことは直視しなくてはなりません。
対応策の一つの可能性としてあるべき?
それがあることと、それがないことを天秤にかけたとき、
僕にはそれがないことの方がメリットがあると思えます。
それは先ほど書いた「日本は普通の国」になることの損失を考慮して、です。


・ 「警察的な行動」の言葉のごまかし
・ 救出活動における自衛隊の「警察的な行動」の効果への疑問


この2点が気になりました。



気になった箇所の両方に共通していますが、
「自分たちの思っていることを相手も酌んでくれる」という考えがあるように感じます。
「それって甘くないですか?」と言いたくなりますが、実際は政府も分かっていることでしょう。
そう考えると、彼らがしたいことは、
「外との関係よりも、日本人をごまかして法を作れればいいや」という不埒なことのように思えてきます。
「後方支援」とか、「警察的」とか、国内向けの言葉のように思えてなりません。
その法によってどのようなことが起こるか、よりも、国内で文句がでないように法を作っちゃいたい、を優先させているのではないでしょうか。
この政権の「作っちゃったもの勝ち」の性格がここにもでているように感じます。


人質事件がまだ解決していない中、早速自衛隊を使っての人質救出の法整備の話が出てきました。何でもかんでもくっつけてきそうに思えます。
要注意です。