「私戦予備及び陰謀罪」と「共謀罪」

張り紙で募集していたというのがすごいですね。
今回事情聴取を受けているという26歳の方のインタビューをテレビでみましたが、
特に信仰についての想いや考えはないようですね。
「日本にいても1、2年のうちには自殺するので、死ぬことはどうとも思わない」
といったことを話していました。
海外諸国でもイスラム国に参加する人が続出しているようですが(現在外国人部隊は、15,000人ほどいるそうです)、どのような理由で参加する人が多いのでしょうか。


「なぜ欧米人がイスラム過激派と共に戦うのか?イラクやシリアで活動する外国人戦闘員の実態」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140902/270671/?P=4
これは参考になりそうです。


とても興味深い案件なのですが、
本稿は、今回の日本人参加のニュースの中にあった刑法の「私戦予備及び陰謀」について考えてみたいと思います。
まずはNHKのニュースを引用します。

日本人 「イスラム国」に参加計画か


イスラム過激派組織、「イスラム国」に参加するためにシリアに渡航しようとしたとして、警視庁は、外国に対して私的に戦闘行為をする目的で準備や陰謀をすることを禁じた、刑法の「私戦予備及び陰謀」の疑いで、大学生など複数の日本人から事情を聴くとともに関係先を捜索しました。
日本人がイスラム国に参加しようとした動きが明らかになるのは、初めてです。


事情聴取を受けているのは、北海道大学に通い現在休学中の26歳の男など複数の日本人で、警視庁は6日、杉並区などにある男らの関係先を捜索しました。


警視庁の調べによりますと、このうち大学生はイラクやシリアで勢力を拡大するイスラム過激派組織「イスラム国」に戦闘員として加わるために、シリアに渡航する計画を立てたとして、外国に対して私的に戦闘行為をする目的で準備や陰謀をすることを禁じた、刑法の「私戦予備及び陰謀」の疑いが持たれています。


警視庁によりますと、この大学生はシリアに渡航する求人に応募し、渡航を計画したということで、任意の調べに対し「シリアに入ってイスラム国に加わり、戦闘員として働くつもりだった」と話しているということです。


私戦予備及び陰謀罪にあたる場合は、3か月以上5年以下の禁錮に処せられます。
警視庁は、関係者から事情を聴いて詳しいいきさつを捜査する方針です。
日本人がイスラム国に参加しようとした動きが明らかになるのは、初めてです。


適用は極めて異例
刑法の私戦予備及び陰謀罪とは、外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その準備または、陰謀をした者を罰する規定で3か月以上5年以下の禁錮刑にするとしています。


国家の意思とは無関係に私的に外国に対して武力の行使を行う目的で武器や資金の調達、それに兵員の募集を行うことなどが、「準備」に当たるとされています。


また、「陰謀」とは、2人以上の人が戦闘を実行するために謀議などを行うこととされています。
この規定が実際に使われるのは、極めて異例です。


中東地域の紛争に詳しい桜美林大学の加藤朗教授は「日本でこうした法律が適用されるのはこれまで聞いたことがなく、大変驚いている。イスラム国はプロが作ったような宣伝用の動画をインターネット上で公開するなど世界を対象に巧みな宣伝活動を行っていて、イスラム教の教義を知らない日本人でも、影響を受けかねないと思う」と指摘しました。


そのうえで、日本人がイスラム国に参加することについて、「その行為がイスラム国の宣伝に利用されかねず、多数の参加が疑われるようなことがあれば日本が国際社会から非難を受けることにもつながりかねない」として懸念を示しました。


NHK 10月6日 21時15分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141006/k10015173181000.html


26歳北大生の方は、刑法の「私戦予備及び陰謀」で事情聴取を受けているとありますね。
この法の内容も引用中にあります。


「刑法の私戦予備及び陰謀罪とは、外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その準備または、陰謀をした者を罰する規定で3か月以上5年以下の禁錮刑にするとしています。」


ということのようです。
ラジオやテレビでもこの法律について取り上げていましたが、
そこで出てくる弁護士や学者の方々も、極めて珍しい方が適用された、といったことを話していました。
この法律で起訴された人はいまだかつて一人もいないそうです。
ちなみに、「傭兵はこの法に触れるのか?」という疑問を取り上げていたラジオ番組がありましたが、そこで出てきた弁護士二人の意見は異なっていました。
一人は問題ない。もう一人は法に触れる。
法律自体が珍しいので見解が定まっていないのですね。
それだけ珍しい法律ですが、ニュースでこの法律を知った時、あるものを思い出しました。
それは、「共謀罪」です。


「準備または、陰謀をした者を罰する」
の部分がそれを想起させたのだと思います。
共謀罪とはどのような法案なのか確認します。

新設する「組織的な犯罪の共謀罪」では,第一に,対象犯罪が,死刑,無期又は長期4年以上の懲役又は禁錮に当たる重大な犯罪に限定されています(したがって,例えば,殺人罪,強盗罪,監禁罪等の共謀は対象になりますが,暴行罪,脅迫罪等の共謀では,本罪は成立しません)。


 第二に,(1)団体の活動として犯罪実行のための組織により行うことを共謀した場合,又は(2)団体の不正権益の獲得・維持・拡大の目的で行うことを共謀した場合に限り処罰するという厳格な組織犯罪の要件(注)が課されています(したがって,例えば,団体の活動や縄張りとは無関係に,個人的に同僚や友人と犯罪実行を合意しても,本罪は成立しません)。


 第三に,処罰される「共謀」は,特定の犯罪が実行される危険性のある合意が成立した場合を意味しています(したがって,単に漠然とした相談や居酒屋で意気投合した程度では,本罪は成立しません)。


http://www.moj.go.jp/houan1/houan_houan23.html法務省


これまで3回国会に提出されたけど、全てが廃案や継続審査に終わっていて、成立していません。
現在開かれている秋の臨時国会での提出は見送りされるそうです。


共謀罪」法案、秋の臨時国会への提出見送り
http://www.sankei.com/politics/news/140817/plt1408170008-n1.html


法務省は、上記の引用部分からもわかるように、しきりに「一般国民が逮捕されることはありませんよ」と言っていますが、反対する人はそうは思ってはいないようです。
従来の刑法学の体系との整合性が問題となる一方、共謀罪の創設によって市民の権利・自由が過度に制約されるのではないかという点が問題となっているようです。
この法案に関して個人的には勉強不足なので、どうこう言うことは出来ないのですが、
今回のイスラム国参加ニュースで取り上げれていた「私戦予備及び陰謀」は、共謀罪に対する国民の意識的ハードルを少し下げる効果があるような気がします。
「危険な人を事前に取り締まることは大事でしょ?」
という言説とともに。


今後共謀罪関連で動きがあるのか。
共謀罪について勉強しつつ、注視していきたいと思います。