TIME誌 ― 安倍晋三に関する記事訳その1


アメリカの週刊誌「TIME」アジア版の4/28号の表紙が安倍晋三氏でした。
「THE PATRIOT」(愛国者)とプリントされた表紙です。
何度かにわけて拙訳を掲載したいと思います。
アメリカがもつ日本に対する意識」の一端が出せれば良いなあと思います。
第一回です。


東京の靖国神社、桜の花びらが神道の参拝者たちのまわりを紙吹雪のように舞っていた。礼拝者たちは厳粛な神殿に近づき、二拍後に頭を下げ礼をした。彼らは戦争によって亡くなり、靖国神社に魂が安置され、神聖なものと考えられている250万人の日本人に敬意を払っている。そのすぐ近くに、平和に反するような軍事的な歴史博物館がある。そこには、地図や剣に囲まれて兵隊の手紙やメガネケースなどがある。それらを含め、展示品は総じて日本皇軍のアジア侵略を讃え、真珠湾攻撃アメリカの残虐性に対して必要のあったものと正当化し、そして日本兵の極悪非道な所業を無いものとしている。当時の中国の首都における虐殺、強姦、略奪である南京大虐殺については、単に‘出来事’としている。


2013年12月26日、モーニングの正装に身を包んだ日本の総理大臣である安倍晋三は、神主の後ろを歩き進み、靖国神社に敬意を捧げた。直近の日本の総理大臣は参拝をしなかった。それは、戦争犯罪人も祀っている神社を容認することが被害を与えたアジア諸国を激怒させるということを考慮してである。しかし、安倍晋三は2006年から2007年の第一次内閣の際の最大の後悔は靖国神社に参拝しなかったことだ、と語っている。案の定彼の靖国参拝は、戦争中に最大の被害を受けた中国と韓国から激しい非難を受けた。信頼できる同盟国であり、安全保障を受け持つアメリカさえも失望を表明した。


しかし、安倍晋三は戦争に対する愛ではなく、国家に対する愛であるというと言う。もし彼を批判する者が「国家主義者の挑発だ」というなら、それでもよい、と彼は言う。「私は国家のために戦った人々の魂に対して祈りを捧げるために靖国神社に参拝するのだ」と以前のタイム誌のインタビューで語ったことがあった。さらにこうも続けた。「私は戦争の惨禍とは無縁の世界を作らなければならない」と。


侵略者から世界第二位の経済大国であり、平和を体現した国へと様変わりした日本は、20世紀においての世界的な‘救い’の一つであった。しかし、戦後70年に迫る今日、その勢いは止まってきている。2011年には、経済において中国に世界第二位の座を奪われた。中国政府は強硬な姿勢で日本や南洋諸国と領土問題で対立しだした。一方日本は、人口の減少と高齢化が進んでいる。2011年の、地震津波原発事故という約16,000人の命を奪った出来事がさらにこの国家的傾向を強調することとなった。


日本が己の魂を探しているように、安倍晋三は ― 戦時中の大臣でA級戦犯で逮捕された岸信介の孫であり、修正主義的なお友達を集め、戦後生まれ初の総理大臣である ― は彼自身を国家の救国者というポジション設定をしている。選挙で強大な力をもった為政者となった59歳の安倍晋三は、国際的な状況に対して消極的であることをやめると誓った。20年のデフレ経済と敗戦後ずっと横たわる諸所の問題が、日本を卑屈なものにしている、と安倍晋三と彼の仲間たちは信じている。それを証左するいくつかの事柄がある。2012年の安倍が所属する自民党のスローガンは「日本を取り戻す」だった。異論の多いアベノミクスと呼ばれる経済政策さえ、強い日本経済を取り戻す内閣のビジョンを体現する政策なのである。「私は愛国者です」と語り、個人的な意欲を披露した。「私が今回総理大臣になったとき、経済同様、外交、安全保障も危機的な状況にあった」


安倍晋三が変革者であろうが、過去の価値感が舞い戻る国に導く国家主義者であろうが、ここ数年に立ち替わり現れた6人の総理大臣の中で最も重きをなしている総理大臣であることは疑いようがない。過去2年間の国政選挙の勝利により、彼が2016年まで自民党総裁であることは極めて可能性の高いことだろう。


この身分保証が彼に彼の政策リストに対してのゆとりを与えている。構造改革による経済復活、技術発明支援、女性活用、占領軍によって制定された日本国憲法を軍隊が持てるものへの改定、そしてそれらのほとんどが自尊心を湧きたてることにつながっている。「日本が無視されるのを防ぐ必要があると安倍は考えている」とブッシュ前大統領の際にアジアの安全保障の要職にあったマイケル・J・グリーンは語る。「安倍は歴史と世界情勢において戦術的な政治家の役割を演じる政治家になりたいと思っている。」


真っ先にあげるべき安倍晋三の成功の如何は、経済に活力をいられるかどうかである。これまで金融緩和と財政政策を柱とするアベノミクスは、成長を上向きにさせることと、株式市場を沸かすことを成し遂げてきた。昨年9月のニューヨーク証券取引所での演説で、安倍晋三は世界的な復活の青写真として自分の名前を冠したアベノミクスを大いに宣伝した。しかし、アベノミクスの第三の矢は誤魔かしに終わるかもしれない。それは、日本が世界と闘うのを阻害している規制を緩和することである。すでに成長は先細りの感を示してきており、さらに消費税が消費活動を湿らせることだろう。


経済的成功がなければ、権威主義的な中国に対抗する、民主国家において軍隊を所有するという現代国家に日本を変える安倍晋三の野望も厳しい局面に直面するだろう。現在の日本の社会は、若者が夢を持てない社会だと言われている。「人々は自信を失っている」と外務副大臣であり、安倍晋三の弟である岸信夫は言う。彼は「祖国と愛国心に対する敬意。私はこれが自信を取り戻し日本が復活する基礎になると思う」と語り、総理大臣にもそれを後押ししてほしいと思っている。


4月のオバマ大統領訪日はこの複雑な状況下におけるタイミングである。オバマは、日本に二泊し、韓国、マレーシア、フィリピンと巡る。(あからさまに中国をとばして)「アメリカには、支持率を背景に状況変化の挑戦を試みる日本のリーダーに対して動揺がある」とヴィクラム・シンは語る。「日本は戦後の国のあり方を誇りに思うべきである一方、戦時の歴史に対して正直にならなければならない。その不足が現代日本政治の最大の欠点である」とシンは続けた。


(続く)