ベースアップについて

「ベア」などという言葉の意味すら理解していなかった分際ですが(笑)、
先日話題になったベアについて一席ぶってみたいと思います。
「ベア」とは、ベースアップの略称だったんですね。
定期昇給」との違いは何かといったら、
●ベア : 労使交渉や賃金政策によって決まる全般的賃金額の上昇
定期昇給 : 個人別賃金の制度的上昇
とのことです。
http://www.h3.dion.ne.jp/~oonisi/qa97.html


とりあえず、今期のベアについてのまとまった記事の引用から。

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春闘は12日、大手企業の一斉回答日を迎えた。自動車、電機、鉄鋼などの多くの企業が賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)を実施すると回答した。2008年以来6年ぶりに本格的な賃上げが行われることになる。今後は、賃上げが中小企業や非正規社員を含めて、どこまで広がるかが焦点になる。


 トヨタ自動車は平均で月額2700円のベアを行うと答えた。ベアは6年ぶり。組合が要求した4千円には届かなかったが、02年以降では最高額で、今年度の物価上昇率の見通し(0・7%)を上回る。宮崎直樹専務役員は会見で、「経済の好循環にむけて個人消費を活性化することは重要。トヨタの労使としてもその役割を果たす必要がある」と述べた。


 日産自動車は3500円の要求に対し、満額回答した。ホンダは3500円の要求に、2200円と答えた。自動車大手3社は一時金(ボーナス)の要求にも、満額回答した。


 一方、日立製作所パナソニック東芝など電機大手は、1998年以降で最高となる月2千円のベアをそろって回答した。2年に一度交渉する鉄鋼大手は、新日鉄住金などが、今年と来年の2年間1千円ずつ、計2千円引き上げると答えた。新日鉄住金のベアは00年以来14年ぶりとなる。


 大手製造業の労組を束ねる金属労協の西原浩一郎議長は「(春闘のリード役として)一定の役割を果たすことができた」と話した。


 今春闘は、アベノミクスによる企業業績の改善を賃上げにつなげて、日本経済の「好循環」をつくり出せるかが注目されている。安倍政権は「デフレ脱却には物価上昇を上回る賃上げが必要だ」として、企業にベア実施を求めていた。


 産業界はこれまでベアについては「将来の負担を固定化してしまう」として否定的だった。業績回復分は一時金で還元するべきだとの主張が多かったが、政権の要請を受けてベアを容認する動きが次第に広がった。

 ベア実施の動きは製造業の主要企業だけでなく、大手スーパーやコンビニなど非製造業にも広がりつつある。ただ、回答がこれから本格化する中小企業では、業績回復が遅れている企業も少なくない。


朝日新聞デジタル  2014年3月12日15時59分
http://digital.asahi.com/articles/ASG3D3415G3DULFA009.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASG3D3415G3DULFA009

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今回のベアは‘官製春闘’とも称されるように、政府の主導によってもたらされた面が強いのではないかと思います。

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春闘、スズキがベア見送りの方針 甘利氏、非協力企業に苦言」

 スズキが2014年春闘で、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善を見送る方針を固めたことが11日分かった。労働組合側は5年ぶりに3500円のベアを要求していたが、今後の経営環境が厳しいと判断した。12日に回答する。

甘利明経済再生担当相は11日の閣議後の記者会見で、業績が改善したのに賃上げを実施しない企業に苦言を呈し「(政府が進める)経済の好循環に非協力的ということで、経済産業省から何らかの対応がある」と述べた。

北海道新聞 (03/11 11:04、03/11 13:09 更新)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/economic/526314.html

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甘利氏のこの発言がその端的なものだと思いますが、
他にも折に触れてこの種の発言をしています。
官製だろうが、何だろうが、ベアが実施されることは良いことだと思います。
それは共産党などが度々言っている
「企業の内部留保を吐き出させることが必要だ」
ということの実践に他なりません。
僕もその必要性は感じていますので、今回のベア自体には一定の評価をします。
ただそれはあくまで「一定」です。
その理由は、安倍氏の基本姿勢にあります。
それは彼の過去の発言を見れば一目瞭然です。



「我々の目標は、企業が最も活動しやすい国にしていくこと、そして、今日集まっていただいたような(諸外国の)皆さんが最も活動しやすい国にしていくこと。」

http://blogos.com/article/60289/



この発言は、一般社団法人・新経済連盟代表理事三木谷浩史楽天会長兼社長)主催の「新経済サミット2013」(2013年4月16日開催)の前夜祭の時のものとのことです。
現在より約1年前の発言ですね。
安倍氏のこの発言を背景にすると、今回の官製春闘も「企業の内部留保が労働者のもとにきた!」という歓迎のみでは見られません。
あくまで安倍氏の主眼は、
「日本を企業が活動しやすい国にする」
ことです。
今回のベアもそれを下敷きに考えた方が実態に即したものになると僕は思っています。
端的に言ってしまえば、今回のベアは「安倍内閣と大企業の取引き」ではないでしょうか。
「あなたたちは内部留保をたくさんしているのだから、労働者に分けなさい」
ではなく、
「あなたたちのための政策を実現するから、ベアを実施しときなさい」
というのが、今回のベアの実態だと考えます。
あくまで「日本を企業が活動しやすい国にする」の一環に位置するのが今回のベアです。


それでは実際にどのような政策で大企業と取引きを安倍内閣はした、またはしようとしているのでしょうか。


● 労働者派遣法改正案


3月11日に内閣は、労働者派遣法改正案を閣議決定したそうです。
内容は、
「これまでは「専門26業務」を除いて3年を超えて1つの業務を派遣社員に任せることはできなかった。改正案は3年ごとに人が交代すれば同じ業務をずっと派遣社員に任せられるようにする。」
というものです。
それによってどんなことが起こるかの予測が下記の記事にあります。


1、 派遣社員をずっと業務にあてられるため正社員の枠が狭まる
2、 派遣社員は3年ごとに「転職」を余儀なくされ、畑違いの職場にいくことも
3、 賃金格差の固定化


といった内容です。
これらはあくまで予測ですが、確実なことは、
「企業が正社員に置き換えなくてはならない業務を派遣社員にずっと任せることができる」
ということです。
その結果、正社員を減らして、派遣社員を増やす企業も出てくることは容易に想像できます。
厚労省の岡崎淳一・職業安定局長は「今回の改正のねらいは、派遣労働者の待遇改善とキャリアアップだ」と強調する。」
と下記の記事中にありますが、圧倒的に企業優遇の政策ではないでしょうか。


「法改正で派遣どうなる 正社員の枠、狭まる/3年ごとに「転職」/賃金格差、遠い解消」
http://digital.asahi.com/articles/DA3S10999011.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S10999011


原発維持


ご承知のとおり、安倍内閣原発を「ベースロード電源」として維持していくことを表明しています。
ベースロード電源とは、
「1日の負荷曲線の中でベース部分を分担するもので、一定の電力供給を可能にし、優先して運転される電源のことである。日本では、資本費は高いが、燃料費が安い原子力、比較的燃料費が安い石炭火力等の電源を意味する。」
http://www.power-academy.jp/learn/glossary/id/1459
という意味のようです。
原子力を優先的な電源にする、ということですね。


原発維持も二つの意味で安倍内閣と大企業との取引きだと思います。
1、 電気代の低下
原発を再稼働することで、電気代そのものは下がる試算が一般的です。試算というより、電力会社もそのような「仕組み」にしているので、間違いないでしょう。建設費用、それに対する政治的資金(寄付金など)、事故が起きた時の対応資金など長期的なものを含めれば、極めて高くつく原発ですが、電気代という月単位の極めて短期的なものにおいては火力を中心とした現在よりは安くなると言われています。
それは日々大量の電気を使用する企業にとって(特に大企業)は、コスト削減にもなり、それを後押しする安倍内閣原発維持政策は「支援政策」ともなり得るでしょう。


2、 原発建設企業への支援
安倍内閣は海外に原発を輸出することに一生懸命ですが、これはまさに「商売」ですね。
原発をお金のもうかる商品として売る商人です。当然、その商品を作る会社にとって安倍氏の商売人ぶりは大変有難いことでしょう。営業努力をしてくれるのですから。「日本国内でも新設を否定しない」といった報道もあります。原発建設会社は例外なく大企業です。それも売上げも高額になる「儲かる商売」です。


以上の二つの理由から、安倍内閣原発維持政策は、「企業との取引き」をメインに想定したものと僕は考えます。



法人税減税

法人税は現在企業の約25%しか払っていなく、約75%は赤字なので払っていないそうです。当然払っている企業=黒字企業は、大企業に多いことは容易に想像できます。その法人税が「他国に比べて高い」ので減税しよう、というのが法人税減税の基本的な考えのようです。単純に考えて、法人税減税は大企業優遇の政策と言えます。現在の試算では、約5兆円分が減税されるそうです。その減った分をどうするか、というのが懸案のようですが、当然そのままにして良いものではありません。どこからか取らなくてはなりません。それがどこからなのか分かりませんが、企業の他に取れるところを想像すると、僕には「国民」しか思いつきません。法人税減税で減収になった分、国民に対し増税するか、もしくは、現在国民が受けている行政施策が減るか、という形で現れるのではないかと思います。
租税特別措置法という法律により、一律に法人税を払っている企業が減税されたからといって、実際に減税となるとは限らないようです。しかし、法人税減税が「日本を企業が活動しやすい国にする」という「取引き」に直接つながることは間違いないでしょう。


復興法人税は2013年度末で廃止されることは決定済みですね。


法人税改革、減税先行で 政府税調が検討に着手」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS12042_S4A310C1EA2000/

法人税減税の効果に2つの疑問」
http://thepage.jp/detail/20131015-00000002-wordleaf

経団連会長、復興法人税前倒し廃止「大いに歓迎」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL010VA_R01C13A0000000/



● 武器輸出三原則緩和


国家安全保障会議(NSC)で、武器輸出三原則の見直し原案を決定」という報道が3月11日にありました。見直し原案の名称は「防衛装備移転三原則」とのことです。何だかバカっぽい名称ですね(笑)。「武器」を「防衛装備」に、「輸出」を「移転」にと、言葉から硬さを取ろう、取ろうとしている考えがありありのように感じます。子供だましというか、誤魔化しというか。まあ、それはいいとして、これがどのような意味で安倍内閣と大企業との取引きなのか。それはこの言葉で一発です。
 

経団連米倉弘昌会長は27日、政府が武器輸出三原則の緩和を決めたことについて、「画期的で高く評価する」とのコメントを出した。」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2702T_X21C11A2000000/


実はこのコメント、2011年のものです。当時の武器輸出三原則の緩和に対しての歓迎コメントですが、今回の「防衛装備移転三原則」はよりそれが緩和されたものです。武器を売りたくて売りたくてしょうがなかった企業にとっては大歓迎の緩和でしょう。原発建設会社同様、武器製造会社もほとんどが大企業です。その関連です。彼らにとってお金儲けのチャンスです。
安倍内閣は「積極的平和主義」のもとに武器輸出三原則の緩和を考えたようですが、僕には大企業との取引きにしか思えません。


「名称は「防衛装備移転…」 武器三原則見直し原案を決定」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140311/plc14031120590014-n1.htm



他にも、軽自動車税増税、国家戦略特区、TPP、労働移動支援助成金など、まだまだ安倍内閣と大企業の取引きはあります。
これらの政策と引換えのベアという見方を僕はしています。
月数千円のアップによって何を失うのか。
それをしっかり見ていかなくてはならない。そう思います。



ちなみに、春闘の集中回答日だった3月12日と、そのお20日の株価です。(冒頭引用記事にあった企業)


トヨタ 5,728/5,425
ホンダ 3,765/3,536
スズキ 2,685/2,551
パナソニック 1,259/1,133
東芝  460/439
日産自動車 875/864
日立製作所 805/728
新日鉄住金 283/270


ベアを市場はどのように見ているのか。市場の見方=株価が大きく影響する社会において、チェックしていきたい数字です。