北本市住民投票


少し前ですが、画期的な住民投票がありました。
埼玉県北本市でありました。
駅の新設に関するものです。
以下、長いですが東京新聞より引用します。

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「無駄遣い」圧倒的多数 埼玉・北本市住民投票 市費で新駅「ダメ」


 埼玉県北本市が市費でJR高崎線の新駅を建設することの是非を問う住民投票が十五日あり、反対票が有効票の過半数に達した。石津賢治市長(49)は「一票でも上回った方に従う」と表明しており、市は長年の悲願としてきた建設計画を白紙撤回する方針だ。
 投票率は62・34%、投票の有資格者は五万六千六百五十六人で、二〇一一年の前回市長選の投票率53・82%を10ポイント近く上回った。開票結果は反対二万六千八百四票、賛成八千三百五十三票で、投票者の四人に三人が反対票を投じた。
 新駅は北本−桶川駅間の北本市南部に設置する計画。
 地元自治体が建設費用の大半を負担する「請願駅」で、総事業費は約七十二億円。市の負担は最大で約五十七億円の見通しとなっていた。
 市は約三十年前に誘致活動を始め、周辺の約九ヘクタールにショッピングモールなどを整備する構想も公表。今年七月にJR東日本から新駅設置の正式な要望書の提出を求められ、計画が動きだした。
 石津市長は九月、「市の史上最大規模の事業になり、市民に是非の判断を仰ぐ意義がある」として、住民投票条例案を市議会に提出、可決された。


投票率62% 市民注目
 多額の税金を使って新駅を造るべきか−。投票率が62・34%に達した埼玉県北本市住民投票は、投票率50%の成立要件を設けなかったことで、市民の関心を強めたとの見方が出ている。五月に行われた東京都小平市住民投票はこの要件を満たさなかったとして、開票すら行われなかった。市の姿勢も市民の関心を高めたようだ。
 「今回の住民投票は身近に感じられた。絶対に投票に行こうと思った」。投票所で派遣社員の女性(54)が力を込めた。
 八日の告示以降、賛成、反対派の各グループがビラ配りや戸別訪問を行い、市内は盛り上がりを見せた。賛成に投じた人からは「新駅がないと若い世代がいなくなる」「通勤に利用したい」、反対票を入れた人からは「福祉などにお金を回すべきだ」「人口減少の時代に税金の無駄遣いだ」などの声が出た。
 住民投票は、新駅建設を主張する石津賢治市長自身が提案し、実施が決まった。建設推進派の一部市議が投票率50%以上の成立要件を加えようとしたが、ある市議は「市長が『選挙だって成立要件はない』と、ほかの市議を説得した」と打ち明ける。
 東京都の道路計画の是非を問う小平市住民投票投票率は35・17%。道路予定地近くの住民以外に、関心が広がらなかったとの見方があるが、投票率の成立要件も投票行動を左右したとみられる。
 市民グループ「小平都市計画道路に住民の意思を反映させる会」共同代表の水口和恵さん(51)は「成立要件があることで、計画見直しを望まない人に『投票に行かない』という選択肢を生んでしまった」と指摘する。北本市でも、複数の市民から「成立要件があれば投票しなかった」との声が漏れた。
 水口さんは「北本市では市長が自ら住民投票を切り出した。小平市では直接請求を受けて市長が市議会に提案する際、『本来なら住民投票にそぐわない案件』と付帯した。姿勢の違いが投票率にも反映されたと思う」と話した。
 (池田友次郎、増田紗苗、花井勝規)



http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013121602000118.html
2013年12月16日  東京新聞朝刊

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住民投票」と聞いて真っ先に思い出すのが、
今年5月に行われた東京都小平市都道建設計画見直しについてのもの、
という方が多いのではないでしょうか。
哲学者の國分功一郎さんが関係してこともあり、僕もこの住民投票には注目していました。
結果は、投票率が規定の50%に 届かず不成立に終わりました。
投票率が50%に届かなければ公表すらしない条件がこの住民投票には課されていました。
35.17%という投票率で不成立になりました。
けっこう盛り上がっている印象があったので、この結果には驚きとともに、残念に思いました。
この結果を踏まえて、國分功一郎さんは『来るべき民主主義』という本を出版しました。
この本に書かれている最も重要なことを端的に言えば、
立法府(議員)は選挙で国民の意志を関与させることができるが、行政府(役所、官僚、地方役人)に対して国民は全く関与できない。現在の日本の民主主義の致命的な欠陥である」
といったことだったと思います。
小平市住民投票で國分さんが身をもって感じられたことなのでしょう。
そして、それは確かに一般的にも納得できることだと思うのです。
道路工事も、橋の建設も、施設の建設も、国と市町村でその規模は違いますが、
ほとんどが役人によって立案され、「予算」という形で議会で審議されながらも、
全てが詳細に扱われることもなく、多くは実行に移されるわけです。
行政府に言わせれば、「国民、住民の意志を反映した議会を通している」なのでしょうが、
そんな杓子定規的な言葉には白々しさを感じます。
国民も住民も投票した候補者に、全てを一括委任しているわけでもないし、
個別には反対部分もあるのが普通です。
さらに、選挙後にパッと現れる計画もあります。(参院選時に全く候補者からは言われていなかった特定秘密保護法案のように)
要は、「民意を受けていない計画」がたくさんあるわけです。
それについて住民が意思表示を示せる住民投票は、
極めて重要なものだと僕は思います。
小平市では50%以上の投票率がなければ成立しない、という条件があり、
実際それに到達しなかったために不成立に終わったことは既に書きましたが、
それによって、「やっぱり住民が関与することは無理なのか。。」という意識が広まった気がしますが、冒頭にあげた北本駅新設についての住民投票では、反対が過半数を超え、
駅新設は中止されました。
これにより実際に北本市で投票した人は、「自分たちで決めることができるんだ」という
実感を得ることができたのではなでしょうか。
とても大掛かりなもの、明らかに変なものの建設に対しても、
反対だけど何もできない状況がこれまでの一般だったように思いますが、
少なくとも北本市の人は「そんなもの住民の意思で決定できる」ということを確かなものにしたことでしょう。
そして、このニュースを知った人もその感覚を共有できるのではないかと思います。
「うちの市でも変なものの建設計画について住民で決められるのではないか」と。
その際、小平市のように投票率での条件があるものではなく、
北本市のように投票率に関係ない方法があるべき姿である、という認識も同時に当然のものとして刷り込まれるのではないでしょうか。
とても勇気を与えてくれるような結果だったと僕は感じています。


これまでなかなかリーチできなかった行政府に、意思をぶつける方法として、
住民投票が当たり前くらいの感覚で、どんどん実行されるようになった時、
なんだかもう少し生きやすい世の中になるような気がします。