なぜ‘クライマックス’を演出したのか?


先週の木曜日、9月26日に楽天イーグルスが優勝を決めました。
創立9年目での優勝、素晴らしいですね。
僕の感覚では「早い」です。
0からとは言わないけど、本当に「寄せ集め」のような状態から始まったことを考えると、よくぞ9年で、と思います。
僕は阪神ファンなので、パ・リーグに特別ひいきしている球団はありません。
しいてあげれば、日本ハムファイターズ楽天イーグルスです。
北の方、というのは関係ないのですが、何となく好きです。
阪神タイガースペナントレース大惨敗の哀しさを埋めるにはほど遠いですが、
3mmくらい埋めてくれるものとして楽天イーグルスの優勝は嬉しいものでした。


優勝が決まった試合、対西武戦の9回のマウンドには田中将大投手がいました。
4−3で楽天が勝っている場面。
その前に2位のロッテが負けていたので、この回を守り抜けば楽天優勝、
というまさに激熱な状況。
そのマウンドに田中投手。
田中投手と言えば、開幕から一度も負けることなく22連勝をしているエースの中のエースです。去年からだと26連勝。漫画の世界です。いや、漫画でこのような状況があったら嘘くさくてそっぽを向かれそうなので、漫画以上ですね。いやはやすごい。
そんな田中投手が抑えれば優勝という場面で登場とくれば、
盛り上がるなと言っても盛り上がってしまいます。
今年はそれまで一度のリリーフも田中投手はしていないので、
戦略的な考えでの田中登場ではなく、「見せ場を魅せる投手で」という監督なのか、選手一同なのか、球団なのか分かりませんが、‘粋なはからい’だったのでしょう。


今年の楽天の優勝は、誰が見ても田中将大投手があってこそです。
この人が仮に17勝5敗だったとしたら、これでも充分素晴らしくエースの成績ですが、楽天の優勝は数字的にはありません。
エース田中将大の活躍では楽天は優勝できなかった可能性が高いのです。
スーパーエース田中将大の活躍が楽天の優勝を確かなものにしました。


そんな状況において、田中投手が優勝のかかる試合の9回のマウンドに上がることに、反対など誰もしないし、できないでしょう。
そして実際に9回を抑えて胴上げ投手になったのだから、文句の付け様がありません。一番絵になる投手が、絵になる場面で、絵になる結果を残した最高の場面だったと思います。野球史に残る絵と言ってもいいのではないでしょうか。


ただ、それは認めつつも、僕は田中投手の登板にとても違和感を持ちました。
その理由は「なぜにCS、日本シリーズ前に‘クライマックス’を演出してしまったのか?」という疑問そのものです。
先発で22勝無敗の田中投手がリリースで出て来て優勝が決まった瞬間は、
これ以上の演出ができないくらい最高の演出です。
あまりにベタすぎて、自由に物語を作っていいと言われてもできない程に出来過ぎたています。
2時間の映画で言えば1時間45分くらいに写し出されるオチのような場面。
残り15分は、後日談とエンドロールしかありません。
その15分に、CSでの勝ち残りと日本シリーズ勝利を描く余地があるのでしょうか?
僕には、用意された胴上げ投手=田中投手という最高の絵で、楽天イーグルスの物語が終わってしまったように思えてなりません。
これが日本シリーズでの優勝の場面だったらまだわかります。
しかしまだCS、日本シリーズと残っているわけです。
まだ終わっていないわけです。
途中でクライマックスを作ってしまって大丈夫なのか?
と思ってしまいます。


田中投手をリリーフにしての優勝は、誰が見ても最高の到達点です。
当然監督、選手、コーチが見てもそうでしょう。
この最高の到達点を実現してしまった後に何を目指せばいいのか。
当然、CS勝ち残りからの日本シリーズ勝利です。
しかし、身体に染み込んだ「物語性」によってそこに本気で向かうことができるのか、僕には甚だ疑問です。
監督も選手もコーチもこれまでの人生で、映画やドラマ、漫画や小説などに、
何かしら触れているでしょう。
それらには基本的な共通する「物語」があるはずです。
起承転結でもいいですが、話の変遷の末にオチがあることは、映画、ドラマ、漫画などどれをとっても欠かすことのできない要素です。
それを子供の頃から何度となく触れて来ているとすれば、
その人には「物語性」が染み付いていると言えます。
「色々巡ってオチがあって終了する」
というシンプルな「物語性」は意識せずとも心に身体にこびりつくものです。
そしてそれは時間とともに「オチがあったら終了」という変形をみせます。
普段の生活でも、友達と話している時に、
「ああ、オチがついたからこの話は終わりだな」
という暗黙の了解で、話題を次のものに変えているという経験はないでしょうか。
この裏にある心理は、「オチがついたらその話は終了」というものです。
これは長年の映画やドラマなどに触れる経験によって培われるものだと思います。そして、何かしらの物語に触れながら成長することが一般的である人類において、「オチがついたらその話は終了」という「物語性」は、共通の概念と言えるのではないでしょうか。
世界中どこにいっても、恐らく通じるものです。
国境も民族も超える程に共通する(と思う)概念を、
楽天イーグルスの監督、選手、コーチが回避しているとは到底思えません。
当然、その概念下にいるはずです。
つまりは、楽天イーグルスの監督、選手、コーチも田中将大投手がリリーフで胴上げ投手になった最高の絵=オチを見たことで、「楽天優勝物語」を見終えてしまったのではないでしょうか。
「良い映画だったなあ」という感想とともに。


「満足感」「達成感」という部分とはちょっと違う、
身体に染み付いた「物語性」により一段落ついてしまった楽天イーグルスのCS、日本シリーズが心配であり、注目でもあります。
もしかしたら、CSと日本シリーズは、続編の「楽天優勝物語2」で描かれるのかもしれません。しかし、忘れてはいけません、1がヒットして制作が決められた続編映画のむごたらしさを。。。



結果が出ていない今、何とでも言えます(笑)。
まあ、僕は阪神タイガースが3位であろうが、CSで勝ち残って日本シリーズにいってくれればそれでよし!
相手が楽天イーグルスでも良いのです(笑)。