日本国憲法96条改憲について【簡略版】


「第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。」



日本国憲法96条です。
日本国憲法の変更手続きに関する条文です。この条文を自民党日本維新の会みんなの党などは変更したがっています。


「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」
   ↓
「各議院の総議員の二分の一以上の賛成」
の変更を求めています。


7月に実施される参議院議員選挙の公約において自民党はそのことを表明しています。その理由は、


―――――ここから


自民党の船田元氏は「3分の2の発議要件はハードルが高すぎる。どちらかの院の3分の1以上の反対で発議が出来ず、国民の憲法関与が妨げられている」と指摘。憲法9条など自民党憲法改正草案で示した改正項目の実現に向けて「改正手続きを何度か繰り返す必要があり、あらかじめハードルを下げておく合理性はある」と過半数への引き下げを訴えた。維新の坂本祐之輔氏も「3分の2以上の現状では国民に判断を仰ぐことは困難」と同調した。


http://www.asahi.com/politics/update/0509/TKY201305090121.html


朝日新聞 2013年5月9日14時37分


―――――ここまで



ということです。
現在は改憲が難しいから楽にしようということのようです。


それを踏まえて、憲法とは何かを確認したいと思います。



● 「憲法とは国家権力を制限するものである」ということ


憲法とは、
「近代的な立憲主義においては、憲法の本質は基本的人権の保障にあり、国家権力の行使を拘束・制限し、権利・自由の保障を図るためのものであるとされる。」
wikiからですが(笑)、憲法に関する本を読んだりしてもこの部分は広く受け入れられているものだと思います。
つまりは、「憲法とは国家権力を制限するものである」ということです。
決して、国民の力を制限するものではない、というところはポイントだと思います。
国家権力というとてつもないパワーをもった怪物に対して
「これはしてはいけない。あれをしないさい」と命令するものが憲法です。
国民に「あれしろ、これしろ」と命令するものではありません。



● なぜ日本国憲法96条を変更してはいけないか


冒頭に書いたように日本国憲法96条は憲法の変更手続きに関する条文です。
「手続き」と書くと何だか軽そうですが、とても大事なものだと僕は考えています。
96条を変更すると、9条や13条、25条などをはじめとする他の条文を変更しやすくなるから反対、ではありません。
96条そのものが日本国憲法憲法たらしめる大きな力になっていると思うからです。


先ほど書いたように、憲法とは「国家権力を制限するもの」です。
仮に自民党などが求める
「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」
   ↓
「各議院の総議員の二分の一以上の賛成」
が実現したらどうでしょうか。
「国家権力を制限するもの」という憲法の力は守られるでしょうか。
僕にはそうは思えません。憲法が「国家権力を制限するもの」でなくなってしまう恐れを抱いてしまいます。


「各議院の総議員の二分の一以上」という数字がどういう数字かと言えば、
その時々の選挙でどこかの党が必ず得るような数字です。
つまり、その時々の国家権力が自分たちの好きなように変更した改憲案を国民投票にかけることができるということです。
二分の一以上という数字は、かなりの純度をもって「自分たちの好きなように」を表現できる数字です。
国家権力の力を制限する憲法を、国家権力が好きなように変更を加えることができる可能性が生まれるわけです。
これでは「国家権力を制限するもの」という憲法の力が弱くなってしまう可能性は俄然高まります。
国民投票があるのだから好きなようにできるわけではない」
という声もあるでしょうが、要点はそこではありません。
政府の統治を憲法に基づき行う原理であるところの立憲主義によって国家運営されている日本国の政治家において、
その基づくべき憲法の力を弱めてしまう96条の変更自体がアウトなのだと僕は考えています。
憲法に基づいて政治を行うべき政治家が、その憲法の力を弱める行為に加担することは罪とすら僕は思っています。
その時々の国家権力に、自分たちの意図のみで憲法を変更できる可能性を持たせてはいけないのです。


日本国憲法の力は、「ある特定の国家権力が好きなように変更できないようにさせる」96条によって保障されているのです。
ただの手続きではありません。


憲法は、今日明日の米櫃に影響を与える類いのものではありません。
しかし、5年、10年、30年後の米櫃に甚大な影響を与える可能性のあるものです。それは自分のみならず、子供の世代、孫の世代、そしてそれ以降の世代にも影響を及ぼすものです。
そのことはしっかり認識しとかなければいけないと思います。