TPP「聖域」関税撤廃を検討について


やはりこのニュースには言及しておかなければなりません。
TPPにおける自民党の農産5品目の関税撤廃検討についてです。
東京新聞の記事を引用します。


 --- ここから ---


「聖域」関税撤廃を検討 農産5品目 自民、TPPで


 【ヌサドゥアインドネシア・バリ島)=斉場保伸】

自民党西川公也(こうや)環太平洋連携協定(TPP)対策委員長は六日、TPP交渉が開かれているバリ島で記者団に対し、「聖域」として関税維持を求めてきたコメなど農産物の重要五品目について、関税撤廃できるかどうかを党内で検討することを明らかにした。


 自民党は昨年末の衆院選で、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」との公約を掲げ、重要五品目を守る姿勢を打ち出してきた。関税撤廃検討は、こうした公約を反故(ほご)にするともいえる。これまで交渉の経緯を説明してこなかったこともあり、国内の反発は必至だ。


 西川氏は重要五品目(関税分類上は五百八十六品目)の扱いについて「勘案しない姿勢が取り続けられるかどうかという問題がある」と説明。その上で「関税撤廃できるかどうか検討する」と語った。同時に農林水産業が打撃を受ける場合に備えた対策の検討も表明した。これについて甘利明TPP担当相は「党と連携を取っていきたい」と話した。


<農業の重要5品目> TPP交渉で政府が関税維持を目指しているコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の原料になるサトウキビなどの甘味資源作物を指す。5品目の関税をなくした場合、安い農産品が大量に輸入され、日本の農業が打撃を受ける恐れがあるとして、自民党や衆参両院の農林水産委員会が関税維持を求める決議をしている。 (共同)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013100702000123.html
10月7日(月)


 --- ここまで ---


自民党の昨年末の衆議院議員選挙の公約に


「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します。


とあります。
自民党2012年衆院選公約】
http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/seisaku_ichiban24.pdf


さらに、自民党幹事長・石破氏は10月2日の全国農業共同組合中央会が主催した集会で、


「私どもは、重要5品目は必ず守る。そのことをお約束致しました。これは必ず守って参ります。そのことはここで断言を致します」


と発言しています。
http://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000013402.html


冒頭引用した「関税撤廃検討」のニュースから、たった5日前です。
この5日で自民党の考えがまるっと変わったのでしょうか?
冒頭記事を受けての本日の石破氏のコメント記事です。


 --- ここから ---


TPP、加工品の関税撤廃検討も 聖域農産物で石破氏
北海道新聞

自民党石破茂幹事長は7日午前、環太平洋連携協定(TPP)交渉で日本が聖域と位置付けてきたコメや麦など重要農産物5品目に関し、影響の小さい加工品などで関税撤廃を検討する可能性に言及した。党本部で記者団の質問に答えた。

 西川公也・党TPP対策委員長は6日、TPP交渉の閣僚会合が開催されたインドネシアで、5品目の関税撤廃を検討する意向を示した。

 石破氏は、これを受け「関税分類上の細目の中で(関税撤廃を)検討するものがあれば検討すると言っている。5品目を守るという党の公約を変更するという意味ではない」と強調した。


http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/496491.html
10/07 13:36


 --- ここまで ---


明らかに変わっています。
石破氏は党内で無視されていて、情報が入ってこないのでしょうか??
一般的な国語力をもった人が上記二つの石破氏関連の記事を読めば、
まるで違うことを言っているのはただちに了解できることでしょう。
「重要5品目は必ず守る」から、
「関税分類上の細目の中で(関税撤廃を)検討するものがあれば検討すると言っている」です。
真逆のことを言っています。
変節史上でも稀に見る変節です。分かりませんが(笑)。
衆議院選挙、参議院選挙の争点の一つにし、全国民に多大な影響を与えることが予想される協定の方針を真逆に変更するにあたって、自民党は幹事長の苦し紛れの言葉と、TPP対策委員長の言葉だけで済ますのでしょうか?
国民を愚弄するにも程があるではないですか。


自民党はコラム「TPPについての考え方」の中でこのように言っています。
「国民の8割以上が、政府の情報提供は不十分と感じている」
https://www.jimin.jp/activity/colum/115185.html


これは民主党野田政権時のTPPの情報提供についてです。
2012年11月15日の朝日新聞朝刊を出典としているようです。
この時点で、「自民党は8割もの国民が情報提供を不十分と感じていることは、悪いことだ」と認識しています。


対して2013年9月28、29日の世論調査では、


「7月から日本がTPP交渉に加わった点には自由貿易の拡大などを理由に69%が評価する一方、86%が交渉内容の説明を不十分としている。」


http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201310060083.html
中国新聞 10月6日


と出ています。
民主党野田政権時とほとんど同じ数字です。
自民党は、「守秘義務からしょうがない」と言うのでしょう。
しかし、彼らは少なくとも2012年11月の時点では、
「8割以上の国民が情報提供を不十分と思っていることを悪いことだ」
と認識していたわけです。
その悪いと認識していたことを実際に現在しているわけです。
そしてそれについての説明は一切なく、「守秘義務」の一点張り。
参加国のマレーシアは国民との情報共有を優先しているそうです。
「TPP交渉の行方シリーズ 2「守秘義務と国民への説明のどちらが優先されるか −情報開示の進むマレーシアと全く不透明な日本−」
http://blogos.com/article/70282/
このマレーシアの試みは、守秘義務内でもやろうと思えば国民に情報提供ができることを意味しています。
「情報提供が不十分なのは悪いこと」と思っているのに自民党は、
一向にマレーシアのような対応をする気配がありません。
自分の善悪の判断よりも重視するものがあるのでしょうか、TPPの交渉事には。
この点においても国民を愚弄する態度は甚だしいと言わざるを得ません。


国民に情報を提供することなく、選挙で選ばれたその態度を変節する際に何の説明もない状態は、到底民主主義とは言えません。
先に引用した中国新聞の記事に


「交渉が妥結し、実際にTPP協定を結んだ場合の対策では「農林水産業への支援措置」が32%とトップで、「TPPが日本経済に与える影響の分析」が30%、「中小企業に対する支援措置」が16%と続いた。」


という記述があります。
これを見る限り「TPPは農業と経済のもの」という認識が高そうですが。
TPPは農業、経済だけについてでは決してないと僕は考えます。
「国の在り方の変更」についての協定だと僕は解釈しています。
日本の文化、国民性、慣習、情緒、事情などに基づいて整えられた法律を、
非関税障壁」という‘壁’と認識し、それを取っ払うことを目的とした協定です。
必ずや全国民に影響を与えるものです。
「経済が活発になっていいねえ」と言っている場合じゃありません。
そんな小銭を稼ぐことと引き換えに、保険制度や混合診療拡充による医療格差、食品の安全基準低下、経済的格差拡大、それに伴う社会不安などなど、大きなものを失う可能性が極めて高いのです。
「人口が多く、払うお金を持っている国」がその最大のカモというのは言うまでもありません。
そんな重大なことが決まる協定の途中経過を知らされず、
それに対する議論もされる機会がない状態は「異常」という事態ではないでしょうか。
国民は「知る」ことにより、判断します。
考えます。意見を言います。議論します。
出発は「知る」ことです。
それが担保されて、はじめて国民主権国家の民主主義は機能するのではないでしょうか。
特定秘密保護法にも関連しますが、国民の「知る権利」は、知識欲とかいうレベルの話ではなく、自分たちが持つ様々な権利を守るための最も重要な権利の一つだと僕は考えます。
TPPは、様々な国民の権利を侵す可能性があります。
それから身を守るためには、「知る」という作業がまず必要なことですが、
日本国政府はそこに一切の配慮を示しません。
彼らが作る憲法草案の基本的な考え方は、


「国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です。国があなたに何をしてくれるか、ではなくて国を維持するには自分に何ができるか、を皆が考えるような前文にしました!」


片山さつきツイッター
http://twitter.com/katayama_s/status/276893074691604481


らしいので、国民の権利は二の次のようです。
そんな政党にとって、国民の「知る権利」などに配慮することは最初から考えていないのかもしれませんね。
映画監督の想田和弘さんは自民党憲法草案を
「民主主義の否定」
とおっしゃっていましたが、TPP交渉、特定秘密保護法集団的自衛権の拙速的解釈変更など、一連の流れの中にもそれは当然あります。
http://magazine9.jp/soda/130417/



色々脱線しましたが、TPPに関して大したことを言っていません(笑)。
ただ、大したこと言えなくても、おかしいことに対して声を上げなくてはいけない、と僕は考えます。
誰か他の人が言っていることでも、自分がそう思うなら、同じことを言ってもいいし、引用でもいい。
とにかく声を出して、できるだけ多くの人に「おかしくないですか?」と伝え続けなくては、本当にこの国の民主主義は終わってしまうかもしれない、
という危機感が僕にはあります。
国民を愚弄することを常態化させる政党が、民主主義を支援する政党だとは僕には思えません。



最後に自民党のTPP交渉参加の判断規準を掲載しておきます。


1、政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
2、自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
3、国民皆保険制度を守る。
4、 食の安全安心の基準を守る。
5、 国の主権を損なうようなISD条項(注)は合意しない。
6、政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。

(注)ISD条項...外国政府の差別的な政策により何らかの不利益が生じた場合、投資家(Investor)である当該企業が相手国政府(State)に対し、差別によって受けた損害について賠償を求める(Dispute)権利を与えるための条項。これが濫用されて、政府・地方自治体が定める社会保障・食品安全・環境保護などの法令に対し、訴訟が起こされる懸念があります。


https://www.jimin.jp/activity/colum/116025.html