米国の中国非難決議と日本

尖閣問題で中国非難決議案を採択 米上院「威嚇や武力行使
2013.7.30 13:48 産経新聞


 米上院本会議は29日、沖縄県尖閣諸島周辺や南シナ海で示威行動を活発化させる中国を念頭に、領有権の主張や現状変更を狙った「威嚇や武力行使」を非難する決議案を採択した。


 決議は「アジア太平洋地域の航行の自由に米国の国益がかかっている」と指摘。


 その上で、尖閣諸島は日本の施政権下にあるという米国の認識が「第三者の一方的な行動によって変わることはない」として、日米安全保障条約に基づき米国が対処する方針も揺るがないことを強調した。(共同)


http://sankei.jp.msn.com/world/news/130730/amr13073013490003-n1.htm

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産經新聞の記事です。
尖閣諸島についてアメリカの上院で対中国に対する決議案が採択されたようです。
記事の主旨は、
・ アメリカ上院が中国に対する非難決議を採択した
・ 尖閣諸島日米安全保障条約に基づきアメリカが防衛する
といった、「アメリカは日本の味方」を印象づけるもののように感じます。
それについては「ああ、そうですか」くらいにしか思いませんが、
極めて重要な内容がこの記事にはあると思います。


>決議は「アジア太平洋地域の航行の自由に米国の国益がかかっている」と指摘。


の一文です。
アメリカの意図が凝縮された一文ではないでしょうか。
彼らは自国の国益のために決議案を採択したわけです。
何も「日本を中国から守ってやる!」という兄貴風でも、正義感でもありません。
自国の国益のためです。
僕の印象ではアメリカは正直な国です。
いつも「大事なのは自国の国益です」と言ってますから(笑)。
それを守るために今回は中国への非難決議案を採択したわけです。
それをもって「アメリカはいつでも日本を守ってくれる」と無邪気に思ったら間違いであることは、自明のことでしょう。
あくまで「自国の国益」です。仮に日本がアメリカの国益を損する状況が起こったら、
アメリカは容赦なく日本に対する非難決議案を採択するのは想像に難くありません。


アメリカの国益は様々あるのでしょうが、この記事で一つ明らかになっています。


「アジア太平洋地域の航行の自由に米国の国益がかかっている」


です。
アジア太平洋地域で自由に、障害なく船が行き来できることがアメリカの国益である、
とはっきり言っています。
これを日本が侵したら、アメリカは容赦なく非難するでしょう。
そしてその可能性が多いにある状況に、現今の日本はなっています。
自民党案による憲法9条改憲であり、集団的自衛権容認です。


僕は
自民党憲法草案第9条は改憲できるのか?」
http://d.hatena.ne.jp/narumasa_2929/20130712/1373617353
でも書きましたが、
自民党案による憲法9条改憲集団的自衛権容認は、
中国、北朝鮮に準戦争状態に入らせる程のインパクトがあるものだと思っています。
中国、北朝鮮が「日本が攻めて来るぞ!」と本気で受け取る、という意味ではなく、
「日本がそうでるなら、こちらもこうでますよ」と‘口実’を与える意味によります。
その‘口実’によって、両国は準戦争状態に入る一定の理由を得ることができます。
中国は毎年の防衛費の伸長に対して懸念の目で見られているようですので、
それに対する‘口実’としても都合が良いのかもしれません。
それら‘口実’が戦争への端緒になることを誰が否定できましょうか。


そしてアメリカです。
本来アメリカは憲法9条改憲集団的自衛権容認に対して、
是非してくれ、というスタンスなのかもしれません。
その思いは約60年前の朝鮮戦争時から持ち続けているものかもしれません。
しかし、今現在アメリカがそれを求めているかについて、
僕は疑問に思います。
なぜなら、それらが
アメリカのアジア太平洋地域の航行の自由」
を妨げる大きな障害になることが明らかだからです。
憲法9条改憲集団的自衛権容認がアメリカの国益を損する大きな源になるからです。
その理由は先ほど書いた中国の準戦争態勢によります。
今現在、戦争の現場を抱えていないアメリカが、
「アジア太平洋地域の航行の自由」という自国の国益を捨てて、
憲法9条改憲集団的自衛権容認に支持を与えるのでしょうか。
「アジア太平洋地域の航行の自由」だけを見れば、
冒頭に引用した中国への非難決議案がそっくりそのまま日本への非難決議案に変わっても何ら不思議ではありません。
憲法9条改憲集団的自衛権容認が、「アジア太平洋地域の航行の自由」を妨げる大きな要因になるのですから。


アメリカが、憲法9条改憲集団的自衛権容認は「アジア太平洋地域の航行の自由」よりも
もっと大きな国益を得ることができる、と判断すればそのような非難決議案は出されないのでしょうが、果たしてどうなのでしょうか。
アメリカのご事情は知りませんが、現在進行中の国益である「アジア太平洋地域の航行の自由」を優先するのではないかなあ、と勝手に思っています。



集団的自衛権:「行使容認」臨時国会で表明検討  毎日新聞 07月30日 07時19分
http://mainichi.jp/select/news/20130730k0000e010141000c.html


秋にも集団的自衛権「公使容認」を表明するかもしれないようです。
ある国と敵対関係が強くなり、同盟国は不支持を表明するとしたら、
この人たちに、‘その後’の対処、対応をする能力があるのでしょうか。
(「日本人に」と言い換えてもよいです)


【追記 7/31】

毎日新聞 2013年07月30日 10時57分

 【ワシントン西田進一郎】バイデン米副大統領は29日までに、米ブルームバーグテレビのインタビューに応じ、日本が戦後の平和主義を捨てるのではないかと聞かれ、「日本の指導者と会ってきたが、安倍(晋三首相)からも誰からも憲法下の現在の状況を捨てようとしているとは聞いていない」と否定した。一方、アジア地域について「誰もこの地域のいかなる国の軍事力増強も望んでいない」と語り、軍拡が緊張を高めることへの懸念を示した。


 インタビューは27日にシンガポールで行われ、29日に同テレビのホームページに掲載された。バイデン氏は26日に安倍首相と約1時間会談している。


 バイデン氏は、中国が海洋進出を強める中で日本により大きな役割を期待するか聞かれ、「しない」と断言。「中国との冷戦や新たなG2関係という話の筋は正しくない。我々は中国を競争と協力の対象と見ている」とし、中国との対立を望まない姿勢を強調した。また「自国の防衛力、国益を維持するため、地域の国々が理性的にとる行動は全く適切だ。そのために、我々は北朝鮮問題について日中韓と緊密に連携している」と語った。
米副大統領:日本の平和主義「捨てるとは聞いてない」


http://mainichi.jp/select/news/20130730k0000e030164000c.html



【追記 8/7】


ロイター 08月 7日


安倍政権が新防衛大綱の年内策定に併せ検討している敵国の基地を攻撃する能力の保持について、米政府当局者が7月下旬の日米協議で「近隣諸国にどんなメッセージを与えるか考えてほしい」と指摘し、中国や韓国へ配慮しながら慎重に対応するよう求めていたことが分かった。政府関係者が6日、明らかにした。米側は、歴史認識や領土をめぐる日中、日韓の緊張が東アジア情勢に悪影響を与える可能性を懸念している。


http://jp.reuters.com/article/jp_Abenomics/idJP2013080601002334


【追記 8/10】


6月24日に行われた「日米安保研究会」発足記者会見において、いわゆる「ジャパン・ハンドラー」の筆頭格だとされるリチャード・アーミテージ氏は、次のように発言しています。


 アーミテージ「日本の集団的自衛権に関しては、米国は日本が決定すべきだという立場をずっと取っています。日本がどんな決定を下そうとも、日米関係は保持していくつもりです。それが第一点です。第二に、度々申し上げてきたことですが、集団的自衛権の禁止は、同盟協力の障害となっているということです」――。


http://iwj.co.jp/wj/open/archives/95686


ブログ内で「集団的自衛権も今のアメリカは望んでいないんじゃないか」と書きましたが、
そんなことはないようです。今か、今かと待ち望んでいるようです。