次の元号が決まったそうです。


みなさんご存知でしょうか、次元号が「令和」に決定したそうです。
あ、知ってますか。
(「れいわ」で変換したら一発で「令和」がでてきました)

「れいわ」、なかなか良い響きです。

この令和、


万葉集にある歌の序文「初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)にして、気淑(きよ)く風和(やわら)ぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かお)らす」(書き下し文)から二文字をとった。


そうで、


日本で記された国書に由来する元号は確認できる限り初めてとなる。

新元号は「令和」(れいわ) 万葉集典拠、国書由来は初 [令和]:朝日新聞デジタル


そうです。

元号は645年の「大化」からというのが一般的のようで、それを基準にすると今年で1374年間の歴史があります。
その間二百四十七の元号が定められてきたそうです。
そんな長い期間で、「日本で記された国書に由来する元号が使われた」というはじめてのことが今回起こったわけですが、「なんかすごいなあ」と阿呆のような感想をもらしてしまいました。
それと同時に報道を見たり、ツイッターを眺めたりしても、そのことにあまり「驚いていない」ことに僕は驚いています。
とりわけ“伝統を重んじる保守”の人たち。このことについて怒らないのでしょうか?
元号に前例のない国書由来のものを使ったのはけしからん!」という声は聞こえてきません。
1374年間という、とてつもなく長い期間続いてきたこと=“伝統”を変更したのに。
今年は皇紀2679年ですが、その半分以上続いてきた“伝統”ですよ、それって日本で最も長く続いている慣習なのではないでしょうか。

それに関連して、何やら不思議な記事がありました。


日本の元号は出典が確認されている限り、中国の儒教の経典「四書五経」など漢籍を典拠としてきた。安倍政権の支持基盤である保守派には、日本で記された国書に由来する元号を期待する声がある。

新元号、午前11時半に発表 数案から選定、首相会見へ


“伝統を重んじる保守”の人たちが、1374年間の慣例を破って初となる日本で記された国書に由来する元号を期待している、という記事です。
実に奇妙です。
なんで“伝統を重んじる保守”の人たちが、日本で最古の伝統といっちゃいましょう、元号の“伝統”を捨てることを期待しているのでしょうか?
もしかしたら4/1(月)に行われた以下の安倍氏元号に関する記者会見でのこの言葉に納得したからかもしれません。


同時に、急速な少子高齢化が進み、世界がものすごいスピードで変化をしていく中で、変わるべきは変わっていかなければなりません。平成の30年間ほど、改革が叫ばれた時代はなかったと思います。政治改革、行政改革、規制改革。抵抗勢力という言葉もありましたが、平成の時代、様々な改革がしばしば大きな議論を沸き起こしました。他方、現在の若い世代、現役世代はそうした平成の時代を経て、変わること、改革することをもっと柔軟に前向きに捉えていると思います。

平成31年4月1日 安倍内閣総理大臣記者会見 | 平成31年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ


これに納得したのならだいぶ物分かりの良い人たちのようです、“伝統を重んじる保守”の人たちとは。

でもですよ、でも、1374年間も続いてきたものが変更されてこんな数行の言葉で納得しちゃうものなのでしょうか?
僕は“伝統を重んじる保守”の人たちとは一線を画しているつもりですが、そんな僕でさえ、「そんな簡単なものなの?」と心配に思ってしまいます。

僕は「“伝統を重んじる保守”の人たちは“伝統”を1mmも変えてはならんではないか!」と言いたいのではありません。
時代を経れば何でも形は変わっていくものでしょう。
それを急激な形でなく、徐々に実行していくのが保守というものだと僕は認識しています。だから保守は変化を通常に備えているものです。
ただ1374年間も続いたものをすんなり捨ててしまうことに何の葛藤も、思案もなく受け入れてしまうというのはどういうことでしょう?
さすがに物分かりが良すぎはしないでしょうか?
夫婦別姓には「伝統的家族観が壊れる!!」とすごい勢いでまくしたてるのに。
こんな感じで

 

 
(日本で夫婦同姓が制定されたのは1898年。そこから彼らの“伝統”がはじまりました)


そこから僕が思うことは、「“伝統を重んじる保守”の人たちの“伝統”とは、“自分たちの好み”なのではないか?」」ということです。
自分たちが好きなものが“伝統”。
伝統の名を借りたただの“都合の良い選択”です。なんとも薄っぺらいもので。
(いくら長い間慣習にあったものでも自分の都合の良い選択で何の躊躇もなく即座に捨ててしまう彼らが「保守」などではないことはここに明確にしておきます)

1374年間も続いた「元号漢籍から」という事実は彼らにとって“伝統”ではなかったのでしょう。お気に召さなかったのでしょう。
何がお気に召さなかったのかといえば、端的に「元号漢籍=中国の書に由来する」ということです。
“伝統を重んじる保守”の人たちのこれまでの行動、発言を振り返れば、それは説得力のある指摘だと思います。
単なる「嫌中」でしょう、これは。
彼らの大好物な「嫌中」が結実した「漢籍由来ではない元号」だからこそ、1374年間も続いた慣習だろうがなんだろうが何も言わずに歓迎したのでしょう。
さらに「嫌中」の裏面ともいえる「日本スゴイ」が、安倍氏や菅氏、“有識者”のエライ方々の「国書、国書」の連呼によって充足されたのでしょう。

コンボですよ、コンボ。
それら二重の喜びの前では、「元号に前例のない国書由来のものを使ったのはけしからん!」などという声が出るはずもありません。

 

以下は4/1(月)のNHKニュース9』に出演した安倍氏の発言書き起こしです。ちょっと長いのですが引用させていただきます。(クリックすると全文読めます)
buuさん(https://twitter.com/buu34)という、国会などの書き起こしをツイッターでやられている方のツイートをお借りします。(「アレ」というのは安倍氏のことです)

 

「令和って言うのは、今まで、中国の漢籍を典拠としたものと違ってですね、自然の一つの情景が目に浮かびますね。厳しい寒さを越えて、花を咲かせた、梅の花の状況、それが今までと違う」

 

「あの、長い間歴史の中で、ずーっとですね、中国の、漢籍、を典拠として元号を決めておりました。しかし、この1400年、元号の歴史をつむいでくる中に於いてですね、やはり、この、ニッポンらしい、え、国書、からですね、あの、ほ、を典拠として、元号を、新たに、発表すべきではないか」


安倍氏の薄汚い「嫌中」「日本スゴイ」意識が元号制定に使われていること、暗澹たる気持ちになります。
グロテスク


ちなみに元号の最終決定は「人気投票」だったらしいですよ。


有識者懇の林真理子氏が「(令和は)一番人気があった。美しい。これで万葉集ブームが起こるのではないか」と官邸で記者団に語る。

新元号ドキュメント(2) 山中氏「中国古典からも案」 林氏「一番人気があった」 その瞬間、有識者も拍手 - 毎日新聞


どんな理由で選ばれたのかも分からないその界隈の有名人である、あえていいますと、“こんな人たち”の人気投票で決まった(決まった形になった)ようですが、これについてはいかが思われますか?

 

昨日4/2(火)のTBSラジオ『Session22』の特集は、
「新元号は「令和」に決定。お祭り騒ぎの一方で、いま、本当に考えるべきこととは?」原武史×片山杜秀×荻上チキ
というものでした。

www.tbsradio.jp
こちらから音声を聞くことができます。「天皇」を研究されてきた原さん、片山さんお二人の話は実に勉強になりました。
中でも片山さんの
「今回の元号制定、発表をみて安倍首相の権力の大きさを感じずにはいられませんでした。自分がお膳立てをして、制定して、発表してと、元号制定が首相の力が誇示されるものになっていくのではないか」
といった主旨の話は実に興味深く、重いものとして今でも残っています。
オススメです。

 

ちなみに東京新聞に「元号制定手続き」が掲載されていましたので、こちらに書き記しておきます。ご参考までに。

 

元号制定手続き(全文)

元号法に定める元号の選定については、次の要領によるものとする。

 

一 候補名の考案
(一)首相は、高い見識を有する者を選び、これらの者に次の元号とするのにふさわしい候補名(以下「候補名」という)の考案を委嘱する。
(二)候補名の考案を委嘱される者(以下「考案者」という)の数は、若干名とする。
(三)首相は、各考案者に対し、おおよそ二ないし五の候補名の提出を求めるものとする。
(四)考案者は、候補名の提出にあたり、各候補名の意味、典拠などの説明を付するものとする。

 

二 候補名の整理
(一)官房長官は、考案者から提出された候補名について、検討し、および整理し、その結果を首相に報告する。
(二)官房長官は、候補名の検討及び整理に当たっては、次の事項に留意するものとする。
ア 国民の理想としてふさわしいような良い意味を持つものであること。
イ 漢字二字であること。
ウ 書きやすいこと。
エ 読みやすいこと。
オ これまでに元号または贈り名として用いられたものでないこと。
カ 俗用されているものでないこと。

 

三 原案の選定など
(一)首相の指示により、官房長官は、内閣法制局長官の意見を聴いて、新元号の原案として数個の案を選定する。
(二)官房長官は、各界の有識者の参集を得て、元号に関する懇談会(以下「懇談会」という)を開催し、新元号の原案につき意見を求め、その結果を首相に報告するものとする。懇談会のメンバーは若干名とし、官房長官が選考する。
(三)首相は、新元号の原案について衆院および参院の議長および副議長である者に連絡し、意見を伺う。
(四)全閣僚会議において、新元号の原案について協議する。

 

四 新元号の決定
閣議において、改元政令を決定する。