権力の連続性
白井聡さんの『永続敗戦論』を読んでから、
権力の連続性についての関心が湧いてきました。
戦後日本は、いかにして戦前日本を引きずっているのか。
戦後日本は、いかほどに戦前日本に引きずられているのか。
それに対する第一歩として、現在の安倍内閣の閣僚がどのような背景を持っているかと調べてみました。
「安倍内閣は戦前からの影響が顕著に違いない!」という思いからではなく、
戦後68年も経った現在の内閣がどれほどの戦前性を帯びているのかを調べることで、これまでの内閣のそれも自ずと推測できるのではないかという思いからです。
項目は、
① 誰からの地盤を継承しているか(世襲か否か)
② それは戦前より続くものか
です。
ここでは権力の連続性が主題なので、世襲は必ずしも血縁関係がある人からのものとは限りません。
また、戦前に政治家、官僚だった人の流れを汲む閣僚を「戦前からの継承」としました。権力を持ち得るのは政治家、官僚だけではなく、実業家、名望家などもいますが、この稿では政治家、官僚に限りました。
【注意】wikiを情報源にしています。
【戦前からの継承】10名
◯ = 戦前に政治家、または官僚
<安倍晋三(総理大臣)>
◯岸信介(祖父) ー総理大臣
◯佐藤栄作(大叔父) ー総理大臣
◯安倍寛(祖父) ー政治家
安倍晋太郎(父)ー自民党幹事長、官房長官、各大臣
◯大久保利通(高祖父) ー内務卿
◯三島通庸(高祖父) ー県令
◯牧野伸顕(曾祖父) ー内大臣、宮内大臣など。重臣
◯麻生太吉(曾祖父) ー実業家、政治家
◯竹内綱(曾祖父) ー実業家、政治家、吉田茂の父
◯吉田茂(祖父・母方) ー総理大臣、官僚
麻生太賀吉(父) ー実業家、政治家
鈴木善幸(岳父) ー総理大臣
※ 寛仁親王妃信子(妹)
◯芦田均 ー総理大臣
◯谷垣専 一(父)ー文部大臣。芦田均の地盤を引き継ぐ。
※ 谷垣安紀(母)ー陸軍中将影佐禎昭の長女
◯岸田 正記(祖父)ー実業家、政治家(海軍参与官、翼賛政治会国防委員長)、元広 島県知事宮澤弘(元首相宮澤喜一の実弟)の岳父
岸田 文武(父) ー通産官僚、中小企業庁長官
◯田村稔(祖父) ー政治家
田村元(叔父) ー衆議院議長、労働大臣など
◯林平四郎(高祖父) ー政治家、実業家
◯林佳介(祖父) ー政治家、実業家
◯周東英雄 ―官僚、自治大臣、農林大臣など
林義郎(父) ー通産官僚、厚生大臣、大蔵大臣 ※ 周東英雄の地盤継承
<古屋圭司(国家公安委員会委員長)>
◯古屋 慶隆(祖父) ー政治家
◯古屋亨(叔父 )ー特高課長、警視総監代理、自治大臣
◯山本泰太郎(祖父) ー草津町長
山本富雄(父) ー実業家、農林水産大臣
◯星島二郎 ーサンフランシスコ講和会議全権委員、商工大臣など
加藤六月(岳父)ー農林水産大臣など。 ※ 星島二郎の地盤継承
※ 加藤勝信は、加藤六月の秘書であり婿
◯世耕弘一(祖父)ー経済企画庁長官、近畿大学初代総長及び理事長
世耕政隆(叔父)ー自治大臣
【戦前からではない世襲】 3名
石原慎太郎(父) ー運輸右大臣
※ 父とは選挙区が異なりますが、父の影響が無関係であるはずないので世襲に含みます。
<根本 匠(復興大臣)>
粟山明 ー政治家
※ 血縁関係はありません。
<甘利 明(経済再生担当)>
甘利正(父) ー建設委員会委員
【世襲ではない】 8名
新藤義孝(総務大臣)、下村博文(文部科学大臣)、茂木敏充(経済産業大臣)、
太田昭宏(国土交通大臣)、小野寺五典(防衛大臣)、菅 義偉(内閣官房長官)、
森 まさこ(女性活力・子育て支援担当)、稲田朋美(行政改革担当)
敬称略
計21名中、
10名が戦前からの流れを汲む閣僚
3名が戦後よりの世襲閣僚
8名が世襲ではない閣僚
となりました。
戦後68年経った内閣でも、戦前より続く権力を地盤にしている閣僚が10名いるのですね。
これが多いか、少ないかは人それぞれの感想があるのでしょうが、
僕はなんとも多い印象を受けます。
戦前に権力を持っていた人が、敗戦を挟んでも依然権力を持ち続け、
それが継承され続けているのが2013年です。
特に安倍内閣だから、というわけではないと思います。
これまでの内閣でも大方変わらないのではないかと思います。
日本戦後政治の傾向ではないでしょうか。
戦前の権力を、政治家、官僚、軍人でみると、
軍人は東京裁判に象徴されるように責任者とされた人は裁かれ、
陸軍省も海軍省も廃止され、権力を失いました。
(その後政治家になった辻正信などがいますが微々たるものですし、自衛隊に入った人も文民統制の状況下では権力とは縁遠い存在となったと言えると思います)
対して、政治家はどうかと言えば、広田弘毅が絞首刑になりましたが、多くは公職追放された後に解除され、また戻っています。
官僚は制度として戦前からの地続きで戦後も特に変わることもなく業務にあたっていたものと思います。(この辺要確認。国外の戦地での軍事裁判で裁かれた現地の官僚はいたかもしれませんが、国内の官僚は東京軍事裁判にかけられた人はいない??)
つまりは、敗戦前と後で変わったのは、軍人が権力を失ったということだけで、
政治家、官僚は権力を持ち続けた、というわけです。
それが現在も続いているということの認識は、現在の政治、社会のこと、
そして未来のそれらを考える上で、参考になるのかもしれません。